2010/01/14

消毒薬のパラダイムシフト NEJM -- Volume 362:18-26 January 7, 2010 Number 1


2009年には傷を治すのに、消毒薬を使わないということが驚きを呼ぶとともに話題になっていました。



たしかにできた傷を治すのに、今や整形外科でも消毒薬は使っていません。使っているのは生理食塩水、いわゆる食塩水です。大学病院なんかではいまだに消毒薬が使われてるみたい。だけど、傷は消毒しないというのはかなり広まっている話だと思います。

私もだいたいの傷は消毒せずに湿潤環境を保ちながら治療しています。


手術を始める前には消毒して、感染の予防に努めます。傷を治す場合とは話は別になります。

外科系の医師にとって手術に関連した感染というのは何が何でも避けたい合併症の一つだと思います。感染してしまうと、患者も苦しめるし、自分だって苦しくなる。なんとかして感染をなくしたいと常に考えています。

そして、多くの施設がこれまで、というか今も、術野の消毒にイソジンを使っています。茶色い液体です。


ところが今回見かけた論文には画期的な記載がありました。

これからは術野の消毒にイソジンではなく、クロルヘキシジンアルコールを使うべき、というものです。

この論文はクロルヘキシジンアルコールがイソジンに比べて術野の消毒に効果が高い、ということを示しています。The New England Journal of Medicineという権威ある医学雑誌に発表されています。

この結論は画期的でした。


論文では849人を対象にして、術後30日までの感染率をクロルヘキシジンアルコールとイソジンで比較しています。

クロルヘキシジン vs. イソジンの感染率の比較は


全体では、9.5% vs. 16.1%
表層の傷の場合、4.2% vs. 8.6%
深層の傷の場合、1% vs. 3%
さらに深い臓器が存在する場所では、4.4% vs. 4.5%


つまり、クロルヘキシジンとイソジンでは、感染予防にはクロルヘキシジンを使った方がいい(深い臓器が存在する場所以外だったら)ということです。


こんな明快な数字で語られるとは驚きでした。明日からの臨床ですぐに使える事実だと思います。

今までイソジンでべたべたに消毒しないと、どうしても十分な感染予防をした気になりませんでした。今回の論文を読んだ後でもその感覚は完全には抜けきれないのですが。。

習慣から抜け出すのは難しいものですが、こういう新しい知識は日々の臨床に反映させていかなければいけませんね。





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(2009/06/17)
夏井睦

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2009/12/19

胸鎖関節脱臼


The New England Journal of Medicine On line

より

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こりゃすごい。胸鎖関節の脱臼だ。矢印の部位が病変。

日常診療でもあまりみかけない。

左の写真を見ると、鎖骨が前に飛び出しているのがわかる。

原因で一番多いのは虐待だそう。例えばこの症例では受傷しているのは右の鎖骨。この場合は右手を後ろに回した状態で、右側から右肩に強い外力が加わることで起こるそうな。

治療は麻酔をかけて右手を後下方に引っ張ってえいっと出っ張った鎖骨を元の位置に戻す。

手術せずに治すことが多く、この症例の場合、リハビリをやって、大きな合併症を残さずに右腕が再び使えるようになったそうですよ。

 >> NEJM Online: Anterior Sternal Dislocation

2009/12/04

骨折の治癒過程


骨が治るまでにはすごく時間がかかるのでいつもじれったい思いをしています。

初めて整形外科で骨折の治療をうける患者さんならなおさらでしょう。

例えば足の骨を折って手術したとしても、体重をかけられるようになるのは手術してから4週間~6週間くらいたってからのことが多いです。

今日は骨折の治癒過程についてのおさらい

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0.骨折


1.初期反応
骨折が起きたら出血するので、血腫ができる。

血腫に接する骨膜や周囲軟部組織の上で未分化な細胞が増殖する。

マクロファージがわさわさと寄ってきて、線維性の血餅として肉芽組織に変化させる。

この肉芽組織から、また、この肉芽組織を足場にして骨芽細胞や軟骨細胞の前駆細胞が出現する。


2.膜性骨化
骨芽細胞により骨基質が合成させる。

この過程では軟骨形成は介さない。


3.軟骨形成
次の過程に軟骨形成がある。

膜性骨化が成熟するにしたがって、肉芽組織にみられる未分化間葉系細胞が分化して軟骨基質を合成する。


4.内軟骨性骨化
軟骨からの骨形成が中心。この時期には軟骨と骨が骨折部で混在した状態。


整形外科クルズス

ここから先は骨折部で軟骨が骨に置き換わるまで延々とリモデリングが続く。

けっこう複雑です。骨ができるまでの過程には骨芽細胞からダイレクトに骨基質ができる過程と、軟骨から骨が形成される過程と二通りあるわけですね。

2009/11/13

予防しよう、エコノミークラス症候群


肺塞栓症が起きるとそのうち3分の1が死亡に至り、しかもその約43%が1時間以内に死亡すると言われています。

この肺塞栓症、以前サッカー日本代表だった高原選手がなった病気として有名です。いわゆるエコノミークラス症候群というやつです。

そうです。エコノミークラス症候群というやつは、長時間飛行機に乗っているときに起こることがあります。

長時間同じ姿勢で椅子に座っていると、ふくらはぎのあたりに血栓ができて、それがちょっと動いた拍子なんかに肺に飛んでいってしまうというわけです。

海外旅行などで飛行機に乗る時はだいたい長時間同じ姿勢でいることが多いですし、トイレにいちいち立つのも面倒だから水分の摂取を控えたりなんかして脱水気味になります。

そうすることでエコノミークラス症候群になるリスクがそろってしまうんですね。名前はエコノミーとなってますけど、ビジネスクラスに乗ったら起きないわけではないですよ。長時間同じ姿勢でいれば何クラスでも起こります。

このエコノミークラス症候群は整形外科の手術に関連した大きな合併症の一つとなっています。さっきも書いたようにこの合併症は起きたら大変ですから、起こらないように色々な工夫がされています。

なんといっても予防が大切ですが、先日の日本リハビリテーション医学会誌でその予防法についての論文がありました。これは一般向けに応用可能な内容だったので紹介します。飛行機に長時間乗る時なんかに役立ちますよ。

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済生会山形済生病院の石井政次先生の報告です。


これを見ると、足首を自分で上に反らす運動というのが一番効果的みたいですね。足にとどこおった血液がグングン体の中心に戻っていくようです。自分で足を反らせなければ、手でモミモミとマッサージするだけでもいいのですね。

上の図に書いてあるAVインパルスやフロートロンというのは間欠的に足を締めつけてくれる機械ポンプのことです。


つけくわえておくと、脱水にならないように水分を意識して多めにとるということや、弾性ストッキングというちょっときつめのストッキングをはいておくのも予防に有効ですからね。





2009/10/22

人工関節と感染 J Bone Joint Surg Am. 2009 Oct;91(10):2480-90.


整形外科、というか全ての外科系の科では手術に伴う感染のことが気になると思います。

特に整形外科では、プレートやスクリュー、髄内釘などのインプラントを体内に入れて骨を固定します。

医学の進歩が著しいとはいえ、そういったインプラントそのものには免疫能がありません。なので、インプラントに細菌が感染すると、なかなか大変なことになります。

場合によってはせっかく入れたインプラントでも挿入に抜かざるをえない場合があります。これは最悪のシナリオですが。

抗生物質があるじゃないか、と抗生物質を手術前後に使っても、そのリスクはゼロにはなりません。


整形外科の手術の中でも特に人工関節における細菌感染はいまだ悩みの種です。

今回読んでみた論文はそんな人工関節の感染にまつわる話でした。メモ代わりにエントリーしておきます。



Current Infection Rates Associated with Elective Primary Total Hip and Knee Arthroplasty

 初回の人工股関節全置換術(THA)と人工膝関節全置換術(TKA)の感染率はTHAで0.25%~1.0%、TKAで0.4%~2%である。


 Historical Perspective: Investigations of the Role of Prophylactic Antibiotics in General and Orthopaedic Surgery

 抗生剤の予防投与を行ったことで、感染率が8.7%から1.7%に下がった例がある。つまり、抗生剤の予防投与は有効である。

↑今やあたりまえ。


Other Measures to Reduce Infection Rates

 感染予防にクリーンルーム、清潔ガウン、二重手袋を使うのは有効である。

↑これも今やあたりまえ。


Common Causes of Surgical Site Infections in Hip and Knee Arthroplasty

  多いのは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)という菌種。


Prophylactic Antibiotics in Institutions with Low Bacterial Resistance

 よく使っているセファゾリンはグラム陽性球菌に有効なだけでなく、骨、滑膜、筋肉、血腫への組織移行性もよい。

 セファゾリンでアレルギーを起こす場合はクリンダマイシンがよくつかわれている。


Dosage of Parenteral Antibiotic Prophylaxis

 セファゾリンなら一回1g(体重80kg以下)、体重80kg以上なら一回2g。
 クリンダマイシンなら1回600~900mg。

 手術が長引くようならセファゾリンは2時間から5時間ごとに投与を繰り返すこと。

↑忘れがちなので覚えておきたいですね。


Duration of Parenteral Antibiotic Prophylaxis

 AAOSは種種の報告から術後24時間を超えて抗生剤投与を続けることを推奨しない。長く投与することの有効性が証明されていないということ。

↑この辺、年配の先生たちはいまだに受け入れられないみたいです。術後2,3日もしくは術後1週間という長い期間抗生剤を投与している先生もいます。


Changing Epidemiology of Staphylococcal Infections

 MRSAが増えていると。MRSAというのは抗生物質が効きづらくなった黄色ブドウ球菌の耐性菌です。

↑MRSAはやっかいです。薬がないわけではないのですが、治療に難渋することが多いと思います。


Prophylactic Antibiotics in Institutions with High Bacterial Resistance

 予防的にバンコマイシンを使うことに関しては議論の余地が残る。
 AAOSはβラクタムアレルギーの患者に限って使用するべきと推奨している。
 もしくはMRSAの感染率が高い施設。

↑バンコマイシンがMRSAの治療薬になります。


Role of Screening for Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus

 鼻腔のMRSAを除菌をしても術野の感染は減らない。

↑MRSAを保有していることと、手術部位がMRSAに感染するということは別問題のようです。


Local Antibiotic Prophylaxis

 抗生剤入りのセメントは感染予防によさそうです。

↑整形外科では手術中にセメントを使って固定したりします。


 >>Prophylactic antibiotics in hip and knee arthroplasty. Meehan J, Jamali AA, Nguyen H. J Bone Joint Surg Am. 2009 Oct;91(10):2480-90.


抗生剤の予防投与は手術中の血中濃度を高く保つことが大切。そして、術後は24時間以内の血中濃度が保てれば、それ以降は抗生剤投与は不要ということです。

セファゾリンでアレルギーを起こすなら、クリンダマイシンを使います。MRSAの発症率が高い施設では躊躇くなくバンコマイシンを使うことが必要です。


このあたりのことは明日からの臨床で使えそうです。


2009/10/12

RICE

整形外科の外来に来る患者さんの数は天候によって左右されます。特に台風や大雨のように足元が悪くなると外来に来る患者数が減るんですよね。いつもは患者さんでごった返している待合室も昨日だけは人数が少なかったと思います。

さて、今日は捻挫や打撲、骨折を受傷したときに全ての人が知っておいた方がよいことを書いておきます。

怪我をしたらすぐに行うようにしてください。

  • Rest(安静)
  • Ice(冷却)
  • Compression(圧迫)
  • Elevate(挙上)
頭文字をとってRICE(ライス)です。スポーツをやっていた人なら知ってるかもしれませんね。


Rest(安静)というのは歩き回ったりせずに横になって休んでおくとかそういうことです。動き回っていると余計に痛くなってきますよ。


Ice(冷却)はビニール袋に氷と水を入れてその袋を患部にあてるというものです。氷水を入れておく専用の袋なんかも市販されていますね。

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アイスノンは簡単でいいんですけど、すぐにあったまってしまうのが問題です。


Compression(圧迫)は包帯などで少し強めに圧迫しておく、ということです。

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Elevate(挙上)は患部を心臓より高い位置に上げておく、ということです。心臓より、というのが大事な点です。


怪我をしてすぐに病院に行っても、結構な時間待たされることが多いと思います。すぐに診察してくれるのが理想ですが、対応が遅いと腹を立てるだけでなく、できることをやっておいた方が自分のためだと思います。

また、病院でギブスを巻いてもらっても、手術をしてもその直後に必ずやることはこのRICEです。


基本的かつ効果的な初期治療です。覚えておいて損はないと思いますよ。

2009/10/02

踵(かかと)の痛みについて


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踵の痛みの話です。

普通は一時的なものが多くて、慢性化することは少ないですし、ましてや手術になることはほとんどないでしょう。

病態と対処法について一般向けにまとまっていたのでご紹介。





Stone bruise
これは石を踏みつけてできた傷のこと。英語ではこんな風に言うんですね


Plantar fasciitis (subcalcaneal pain)
これ結構多いんじゃないかなー。日本語では足底腱膜炎と言います。日常診療でもよく見かけます。


Heel spur
踵に骨棘というものできる病態です。骨棘というのは靱帯の付着部などの場所で、もともと骨がなかったところに骨ができる病態です。踵の場合はアキレス腱が踵の骨にくっつくところによくできます。これも結構見かけますよ。特に高齢になるほど多いですね。


治療はどれもだいたい同じなんです。手術になることはほとんどありません。このあたりを覚えておけばまずは応急処置としては十分ですね。

  • 壁に背中と踵をつけた状態にしてアキレス腱を伸ばすストレッチをする。その次に今度はつま先立ちで立つ。これもストレッチになります。
  • 痛みや腫れに対して、飲み薬や貼り薬、塗り薬などの非ステロイド性消炎鎮痛薬を使う。薬は病院に行かないともらえないかな。
  • 炎症を抑えるためにアイシングをする。これは急な痛みの対応としては基本です。
  • 3/8" or 1/2"くらいの踵装具を靴の中に入れる。こういうのは整形外科に行かないと分からないかもしれませんね。



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