2010/10/07

高齢者の骨折と死亡率


femur1.pngなんとなく感覚としてはそうなんだろうなと思っていたのですが、それを論文としてまとめているものがあったのでご紹介。

骨折はあまり死なない病気なんてことがよく思われているのですが、高齢者の骨折はちょっと違います。それ自体が身体の衰えを表しているのでしょう。骨折を契機に具合が悪くなって死亡につながるなんてことがよくあります。

以前に大腿骨頚部骨折で、手術介入の時期による死亡率の差、なんて論文(Early mortality after hip fracture: is delay before surgery important? Moran CG, Wenn RT, Sikand M, Taylor AM. J Bone Joint Surg Am. 2005 Mar;87(3):483-9.)を見かけましたが、今回は大腿骨遠位の骨折でした。大腿骨遠位というのは大腿骨の中でも膝に近いところのことを指します。

Clin Orthop Relat Res. 2010 Sep 10.
Mortality After Distal Femur Fractures in Elderly Patients.
Streubel PN, Ricci WM, Wong A, Gardner MJ.

60歳以上の患者92人、1999年から2009年までのデータに基づいています。

この論文によれば、大腿骨遠位の骨折では頚部骨折と同様、手術の遅延(4日以上たってからの手術)は6ヶ月後死亡率、1年後死亡率に悪影響を与える、というのが結論です。

48時間以内に手術を行った場合の6ヶ月後死亡率は5%、1年後死亡率は6%。それに対して4日以上たってから手術を行った場合は6ヶ月後死亡率が35%、1年後死亡率が47%だそうです。



手術が必要な患者にはさっさと手術をするのが一番です。それは整形外科医なら誰でも分かっていることだと思います。

しかしながら、実際の臨床の現場では手術枠の確保とか、麻酔科との兼ね合いとか、なかなか一筋縄ではいかないハードルが立ちはだかります。

科をあげて、手術室、病院をあげて考えていかなければいけない問題なのです。


2010/09/21

自分で治せる!腰痛改善マニュアル



自分で治せる! 腰痛改善マニュアル
腰痛は8割の人が一生涯のうちに経験することがあるものです。また、腰痛の8割がはっきりとした原因がわかりません。

私が実際に臨床をやっていてもこれらの数字は妥当かなと感じます。

腰椎すべり症とか、椎間板ヘルニアとか、腫瘍性病変とか明らかな異常があれば別ですが、異常が指摘できないことの方が多いのです。

腰痛で病院を受診したことがある人はわかるかもしれませんが、病院を受診しても「骨の変形があるから」とか、「レントゲンでは明らかな異常がないので筋肉や筋膜の炎症でしょうね」と言われて消炎鎮痛薬を処方されることが多いと思います。

原因がはっきりしない腰痛が多いわけですから、その症状に合わせた治療をするしかありません。

人間の体はよくできているもので、痛みの治療をしていると、原因を治療したわけではないのに病状がよくなるということがよくあります。

原因がわからないことが多い、腰痛ですが、原因の一つに姿勢の異常が大きく関わっているという説があります。

22534-4126663c769264e2.png

この図に示されるとおり、脊椎にはカーブがついています。ちょうど腰椎のあたりでは前弯といって、お腹の方に向かってカーブが形成されています。

「原因のわからない腰痛」の原因はこの脊椎の形が崩れようとしていることにあるのではないかというのです。腰椎のお腹の方に向かうカーブが大事、ということです。

そういう観点から、姿勢をよくする、脊椎をいい形にするというところに腰痛治療の鍵がありそうです。

実際にロビン・マッケンジー(The McKenzie Institute - Welcome to the McKenzie Institute International)という人物は腰痛に対して独自のエクササイズを用い、たくさんの患者を治療してきたそうです。

独自のエクササイズといっても、そう難しいことではありません。マッケンジー法のコンセプトが”腰痛は自分で治す”というものですから、自宅でも十分できそうなものになっています。

22534-4126663c7711d33f.png


腰痛の急性期は安静にする、というのが常識でしたが、このように背屈することで急性期から腰痛が改善することがあるそうです。
22534-4126663c77042bfe.png

これらは本書に掲載されているエクササイズの例です。

私は腰痛治療にあたる者として、もどかしい場面もよく経験するので、このエクササイズは取り入れてもいいなと感じました。

上の写真はエクササイズの一部で全てを掲載することはできませんが、腰痛で苦しんでいる方、試しに本書を参考にエクササイズしてみてはいかがでしょうか。


自分で治せる! 腰痛改善マニュアル自分で治せる! 腰痛改善マニュアル
(2009/08/28)
ロビン・マッケンジー

商品詳細を見る


2010/08/20

虐待と骨折


先日は若いシングルマザーによる、ネグレクトによる子供の虐待死が話題になっていました。

僕が専門にしている整形外科も子供の虐待とは無縁ではありません。

虐待による骨折という場合もあるからです。

骨折した子供が救急外来を受診したとき、どうして骨折したのか状況を尋ねます。いつもの問診です。小さな子供になると、自分で状況を説明することはできませんから、必然的に母親もしくは父親に状況を尋ねます。

交通事故とか、遊んでいてジャングルジムから落ちたとか、はっきりとした原因があれば虐待を想起することはありません。

しかし、なかには「気づいたら子どもが泣いていて、足が腫れていたので連れてきた。」などと曖昧なことを話す親もいます。

これだけの骨折をしているのに、”気づいたら”ってことはないだろう、という場合は小児科の先生も登場して虐待が背景にないか調べたりするのです。

ただ、骨折した本人はもの言えぬ子供です。なかなか真相究明につながらないことも多いのです。


骨折の部位とか形態によって、虐待が証明できれば、それ以上の虐待を防止することができるかもしれません。

この前見かけた論文で、骨折の部位と、虐待である可能性について触れられていました。


The Radiographic Approach to Child Abuse. [Clin Orthop Relat Res. 2010] - PubMed result

高い特異度で虐待の疑い
骨幹端の角の骨折、後内側の肋骨骨折、胸骨骨折、肩甲骨骨折、棘突起骨折

中等度の特異度で虐待の疑い
多発骨折、骨端離開

低い特異度で虐待の疑い
長管骨の骨折、鎖骨骨折

だそうです。

大腿骨骨幹部骨折などは時々見かけるのですが、虐待くさくないということなのですね。意外でした。

体の中心に近いところの骨折が虐待くさいというなんですね。

2010/07/24

【Lancet】これからの痛み止め薬


痛み止めにはさまざまな種類があります。全国の日本の病院で使われている、代表的なものはロキソニンやボルタレンでしょう。

それに対して比較的最近発売された痛み止めにセレコックスというものがあります。これは選択的COX2阻害薬といって、ロキソニンやボルタレンでしばしば問題になる胃・十二指腸潰瘍、腎障害のリスクを減らせる鎮痛薬です。

今まではハイペンというCOX2阻害薬がありましたが、痛み止めとして切れ味が悪いのであまり使われませんでした。それに対して最近発売されたセレコックスは痛み止めとしての効果も高く、より選択的にCOX2を阻害して副作用を抑えることができると言われています。

ロキソニンやボルタレンはその副作用が広く知られていますので、それらと一緒に胃薬を処方されるのが普通です。そこまでしてロキソニンやボルタレンに多くの医者がこだわっているのは、やはりその効き目からだと思います。両者とも切れ味の鋭いいい薬なのです。

実際には僕も臨床ではロキソニンばかり使っています。


Celecoxib versus omeprazole and diclofenac in pati... [Lancet. 2010]

この論文には、これから痛み止めを処方する時はいつものロキソニンをやめてセレコックスにしようかと思わせる結果が載っています。

32カ国、196施設で変形性関節症や関節リウマチなど関節痛のある患者に対して、6ヶ月間にわたる二重盲検、無作為化試験を行っています。一方の患者にはセレコックス200mgを1日2回、もう一方の患者にはボルタレン徐放剤75mgを1日2回、それに加えて副作用対策でオメプラゾール20mg(いろいろある胃薬の中で一番強力)を1日1回投与しています。


その結果、胃十二指腸における副作用はセレコックス群において有意に低かったそうです。


痛み止めをたくさん処方する立場としては、なるべく副作用が少なくて、効く薬を処方したいと思っています。そう考えると、この論文は朗報に見えます。

ただし、セレコックス200mg1日2回と、ボルタレン徐放剤75mg1日2回が同等の鎮痛効果だとしてなのですが。。

まずはセレコックスの効果を確認する必要がありますので、この論文と同じ量の200mg1日2回を処方してみたいと思います。


ちなみに、ボルタレン徐放剤は日本では1錠32.5mg、1日2回の使用とされています。それなら70mgを1日2回も使えば、いくらPPIを併用していても胃十二指腸潰瘍が起きるの当たり前なのでは?という意見もあると思います。


2010/06/13

未来の医療「医療クラウド」


ソフトバンクの孫社長が未来の医療の形をシンポジウムで語っていました。


驚きました。私自身が「未来の医療はきっとこうなる」と思っていたこととぴったりでした。医療クラウドというものです。

詳しくは一度USTREAMのこの動画を観てみてください。



1. 病院間でひとりの患者情報を共有すること
患者情報はどの病院でも参照できるようにしたほうがいい。その方が無駄な検査は減るし、これまで病院ごとに患者情報を収集していた労力、人的、物的コストが減る。


2. 遠隔地医療の充実
画像検査など、読影を依頼したくても放射線科医がいないとき。そんな時すごく役立つと思う。画像を転送して読影してもらって、そのコメントをもらえばいいわけだ。医療クラウドならそれが可能だろう。
もちろん在宅医療にも役立つだろうことは言うまでもない。


3. 手術支援
たとえばUSTREAMとかを利用して動画を見ながら、それに対して「ここはこうしろ、ああしろ」などの指示を出す。USTREAMの画質がもう少しよくなればそれが可能だと思う。

4. ipadに電子カルテの機能を持たせれば最強
とかく医師の指示がないと動かないのが病院業務。その場にいなくても、指示だけあればいいといったとき、ipadを使ってオーダーを出せれば便利。また、どこでもカルテを書けるというのも便利だ。医療クラウドとipadの組み合わせは最強になるんじゃないか。


そんなわけで医療クラウドと、それを実現しようとしている孫社長、ソフトバンクに期待大です。応援したいと思います。

2010/05/16

ムンテラ はコミュニケーションだ


どんな人に対してでも、語りかけるときには気をつけておいた方がよさそう。

コミュニケーションは受け手の言葉を使わなければ成立しない。
人の心は、期待していないものを知覚することに対し抵抗する。また、期待するものを知覚できないことに対し抵抗する。

というのは、P・F・ドラッカーの言葉です。そのとおりだと思います。


医師の患者に対する病状説明は"ムンテラ"なんて呼ばれますが、上の言葉はそのままムンテラにあてはまります。

どんなに医師が熱心に合併症とかリスクの話をしても、患者はほとんど覚えていないというのはよく経験することです。

受け手である患者が分かる言葉を使って説明するというのも大切ですから、患者にわかるような言葉を選ぶように気をつけます。

ですが、その条件をクリアーしてもなお、患者にとって都合の悪いことは右から左へ聞き流されていることがあります。


後から言った言わないの議論になるのを恐れるため、医師が用意する患者説明用紙には合併症のことについて多くが割かれています。治療そのものの説明よりも文量は多いかもしれません。

誰でも都合の悪いことには耳を塞ぎたくなるものですよね。ある程度仕方のないことだとは思います。

それでもなんとか少しでもわかってもらえるように、リスクのことについてはきちんと説明するようにしています。


【関連記事】


2010/04/05

守りの医療 - ディフェンシブ・メディシン




この話は外科医が治療(手術)に伴なうリスク、合併症のことについて患者さんに説明したところ、患者さんは合併症のことを重く考え、代替医療に走ってしまったというもの。

それに対して外科医は

確かに手術は人間が行うものなので絶対ではない。患者さんの立場なら、手術への不安から安全な治療、誤った療法を選んでしまうこともあるだろう。だが、患者さんはともかく、医療従事者だけは、不安な思いに対して“安全第一”が取り憑いた判断をしてはいけないと思う。
と自省している。


患者には安心を提供しなくてはいけない、という意味では同感。

「私にまかせておけば大丈夫。必ず治します。」

なんてかっこいいことを言ってあげたいなぁと思う。



でも、この外科医のとった言動は決して間違ったものではないとも思う。手術の説明ともなると、説明時間の半分以上を手術に伴なう合併症に費やしていたりするのが現実。

実際の臨床では理解してもらえるように、平易な言葉で患者さんに分かるように説明するよう心がける。すると患者さんは、うんうん頷きながら、「分かりました。」と言いながら聞いている。

しかし、どこまで話を理解しているのか怪しいところがあるのは確か。自分にとって不都合なことは頭の中に入ってこないというのは誰でもそう。患者さんと対面しているとよく分かる。

にもかかわらず、ほとんど起こらないけど、起きるかもしれないことの説明に時間を費やしている。保険会社みたいに紙を渡して、あとは自分で読んでください、なんて形式にしたらどうだろう。いい話だけ聞いてればいいから、患者さんも気が楽に違いない。



これはほんの一例だが、そのような過剰に防御的になる医療をディフェンシブ・メディシンというのだそう。

救急外来にきた患者で「胸が痛い」と言ったらほぼ全員に造影CTをやるとか、頭をぶつけたかもしれなかったら全員頭部CTとか。

こういうのもディフェンシブ・メディシン。なんでもかんでも検査しておけば、後で”何か”起きた時に役立つかもしれない。でも医療費はこうしてどんどんあがるわけだ。


実際にアメリカを例にとると、ディフェンシブ・メディシンの弊害は

ディフェンシブ・メディシンによる無駄な医療がどれだけ医療費を押し上げているかについてもいくつかの研究があるが、医療過誤の賠償金に上限を設けるなどの法的対策を講じていない州では、そのような法的対策を講じている州と比較して、医療費総額の5-10%が余計に消費されているのではないかと推計されている。
市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗には書かれている。

医療過誤に対して設ける法的対策というのはおもしろい。


すでに日本でもディフェンシブ・メディシンははびこっているけど、医療費が増え続ける原因の一つに増え続ける医療訴訟というのもあるのかもしれませんね。


市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗市場原理が医療を亡ぼす―アメリカの失敗
(2004/10)
李 啓充

商品詳細を見る




Pages