2010/12/07

圧迫骨折の治療


vertebral fracture img
腰椎や胸椎の圧迫骨折は日常的によく見かける骨折だ。

特に多いのが高齢者の圧迫骨折。若い人でもものすごい勢いで尻餅をついた時などは椎体がつぶれて骨折してしまうことがある。

今日の外来診療でも圧迫骨折の患者さんを3人診た。午前中だけの外来でも、そんな患者さんを診ずにすむことはほとんどない。

圧迫骨折の治療で最も問題となるのは痛みの治療だ。折れるとものすごく痛い。痛くて身動きがとれないほど。

痛みの治療にはだいたい飲み薬や貼り薬の痛み止めを使う。他にはエルシトニンという筋肉注射も使っているかもしれない。これも圧迫骨折の痛みに効く。

ただ、これらの薬を使ってもなかなか痛みがよくならないことも多い。

そこで直接骨折した椎体になんらかの介入を行って痛みをよくしようという試みがなされている。


Osteoporotic vertebral compression fractures with an intravertebral cleft treated by percutaneous balloon kyphoplasty -- Wang et al. 92-B (11): 1553 -- Journal of Bone and Joint Surgery - British Volume

この論文では折れた椎体を風船でふくらませ、セメントを入れている。

痛みやADLの面で有効だったそうだ。

合併症はセメントの大静脈内への漏れや椎間板内への漏れなど。

合併症が起きたら大変だけど、痛みがよくなるならいい方法なのかもしれない。


椎体に直接治療を施すという方法は以前からも試みられていて、NEJMでは


A Randomized Trial of Vertebroplasty for Painful Osteoporotic Vertebral Fractures ― NEJM

という論文が発表されている。

こちらの論文では何もやらなかった群と大差はないとされている。


まだまだ結論の出ていない治療法ではありますが、もしかしたら一般に普及してくる方法なのではないかと期待しています。

2010/11/16

コンドロイチン、グルコサミンの効果 論文(NEJM)から


新聞を読んでいると、コンドロイチンやグルコサミンのサプリの宣伝をよく見かけます。

”関節痛をなくして、痛みのない快適な生活を”という内容のものです。

若い人は興味がわかないかもしれませんが、高齢者にとって関節に痛みがあるということはとても大きな問題です。

高齢者の膝痛は変形性膝関節症に由来するものが多く、町中で見かける高齢者のO(オー)脚はほとんどコレです。

膝の軟骨がすり減って、さらには骨の変形をきたすものだ。一種の老化とも考えられます。だから、若い頃のような膝に戻して欲しいと言っても、それは難しいのです。

なので通常、治療は 貼り薬飲み薬などの鎮痛薬を用いたり、運動療法などの理学療法を用います。理学療法というのはリハビリのことですが、リハビリの効果はあなどれません。なかなか患者さん自身に指導しても長続きしないということが多いのですが。。

それでもダメな人は膝関節の中にヒアルロン酸の注射をします。

それでもダメなら人工膝関節などの手術の適応となります。人工関節の手術は昔と比べてだいぶ進歩しており、比較的安全にいい長期成績を残せるようになってきています。

しかしながら、誰しも初めから手術を望む人などいません。医師もできれば手術をせずに治せればいいと思っています。


そこで、軟骨がすり減るんだったら、それを作るような物質を摂取すればいいのではないか?という発想に至ります。

軟骨を構成する成分にコンドロイチンやグルコサミンなどがあるので、これをターゲットにしてみてはどうか?と。

たしかにコンドロイチンやグルコサミンを摂取することで軟骨が復活するようなことがあればいいのでしょうが、実際のところどうなのでしょう。

現在市販されているサプリはこの点に注目しているわけですね。


しばらく前の論文ですが、NEJMというメジャーな論文でそのことについて検討されていましたので紹介しておきます。


Glucosamine, Chondroitin Sulfate, and the Two in Combination for Painful Knee Osteoarthritis ― NEJM

この論文が示しているのは、コンドロイチンやグルコサミンは内服しても、明らかな効果を認めなかったということ。有意差をもって効果が証明されてはいません。

結論のところでさらなる研究の継続が必要ということが付記してありますが、絶対効きますということは決して言えないということです。

「痛みに対しては効果があるかもしれないし、内服しても大した副作用はないから、飲みたい人は飲んでみればいいかもしれない。」という程度です。


それなのに、サプリの売り手があたかも根本的な治療になるかのような誇大広告を打つのはどうなんでしょうかね。

あれを見たら、消費者はとてもよく効くと思ってしまいますよ。僕のまわりにもそう思っている人がたくさんいて、よく相談されます。

新聞などで一面を使って広告が掲載されているのを見て、そう感じた次第です。


グルコサミン - Wikipedia

コンドロイチン硫酸 - Wikipedia

軟骨 - Wikipedia


2010/10/07

高齢者の骨折と死亡率


femur1.pngなんとなく感覚としてはそうなんだろうなと思っていたのですが、それを論文としてまとめているものがあったのでご紹介。

骨折はあまり死なない病気なんてことがよく思われているのですが、高齢者の骨折はちょっと違います。それ自体が身体の衰えを表しているのでしょう。骨折を契機に具合が悪くなって死亡につながるなんてことがよくあります。

以前に大腿骨頚部骨折で、手術介入の時期による死亡率の差、なんて論文(Early mortality after hip fracture: is delay before surgery important? Moran CG, Wenn RT, Sikand M, Taylor AM. J Bone Joint Surg Am. 2005 Mar;87(3):483-9.)を見かけましたが、今回は大腿骨遠位の骨折でした。大腿骨遠位というのは大腿骨の中でも膝に近いところのことを指します。

Clin Orthop Relat Res. 2010 Sep 10.
Mortality After Distal Femur Fractures in Elderly Patients.
Streubel PN, Ricci WM, Wong A, Gardner MJ.

60歳以上の患者92人、1999年から2009年までのデータに基づいています。

この論文によれば、大腿骨遠位の骨折では頚部骨折と同様、手術の遅延(4日以上たってからの手術)は6ヶ月後死亡率、1年後死亡率に悪影響を与える、というのが結論です。

48時間以内に手術を行った場合の6ヶ月後死亡率は5%、1年後死亡率は6%。それに対して4日以上たってから手術を行った場合は6ヶ月後死亡率が35%、1年後死亡率が47%だそうです。



手術が必要な患者にはさっさと手術をするのが一番です。それは整形外科医なら誰でも分かっていることだと思います。

しかしながら、実際の臨床の現場では手術枠の確保とか、麻酔科との兼ね合いとか、なかなか一筋縄ではいかないハードルが立ちはだかります。

科をあげて、手術室、病院をあげて考えていかなければいけない問題なのです。


2010/09/21

自分で治せる!腰痛改善マニュアル



自分で治せる! 腰痛改善マニュアル
腰痛は8割の人が一生涯のうちに経験することがあるものです。また、腰痛の8割がはっきりとした原因がわかりません。

私が実際に臨床をやっていてもこれらの数字は妥当かなと感じます。

腰椎すべり症とか、椎間板ヘルニアとか、腫瘍性病変とか明らかな異常があれば別ですが、異常が指摘できないことの方が多いのです。

腰痛で病院を受診したことがある人はわかるかもしれませんが、病院を受診しても「骨の変形があるから」とか、「レントゲンでは明らかな異常がないので筋肉や筋膜の炎症でしょうね」と言われて消炎鎮痛薬を処方されることが多いと思います。

原因がはっきりしない腰痛が多いわけですから、その症状に合わせた治療をするしかありません。

人間の体はよくできているもので、痛みの治療をしていると、原因を治療したわけではないのに病状がよくなるということがよくあります。

原因がわからないことが多い、腰痛ですが、原因の一つに姿勢の異常が大きく関わっているという説があります。

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この図に示されるとおり、脊椎にはカーブがついています。ちょうど腰椎のあたりでは前弯といって、お腹の方に向かってカーブが形成されています。

「原因のわからない腰痛」の原因はこの脊椎の形が崩れようとしていることにあるのではないかというのです。腰椎のお腹の方に向かうカーブが大事、ということです。

そういう観点から、姿勢をよくする、脊椎をいい形にするというところに腰痛治療の鍵がありそうです。

実際にロビン・マッケンジー(The McKenzie Institute - Welcome to the McKenzie Institute International)という人物は腰痛に対して独自のエクササイズを用い、たくさんの患者を治療してきたそうです。

独自のエクササイズといっても、そう難しいことではありません。マッケンジー法のコンセプトが”腰痛は自分で治す”というものですから、自宅でも十分できそうなものになっています。

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腰痛の急性期は安静にする、というのが常識でしたが、このように背屈することで急性期から腰痛が改善することがあるそうです。
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これらは本書に掲載されているエクササイズの例です。

私は腰痛治療にあたる者として、もどかしい場面もよく経験するので、このエクササイズは取り入れてもいいなと感じました。

上の写真はエクササイズの一部で全てを掲載することはできませんが、腰痛で苦しんでいる方、試しに本書を参考にエクササイズしてみてはいかがでしょうか。


自分で治せる! 腰痛改善マニュアル自分で治せる! 腰痛改善マニュアル
(2009/08/28)
ロビン・マッケンジー

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2010/08/20

虐待と骨折


先日は若いシングルマザーによる、ネグレクトによる子供の虐待死が話題になっていました。

僕が専門にしている整形外科も子供の虐待とは無縁ではありません。

虐待による骨折という場合もあるからです。

骨折した子供が救急外来を受診したとき、どうして骨折したのか状況を尋ねます。いつもの問診です。小さな子供になると、自分で状況を説明することはできませんから、必然的に母親もしくは父親に状況を尋ねます。

交通事故とか、遊んでいてジャングルジムから落ちたとか、はっきりとした原因があれば虐待を想起することはありません。

しかし、なかには「気づいたら子どもが泣いていて、足が腫れていたので連れてきた。」などと曖昧なことを話す親もいます。

これだけの骨折をしているのに、”気づいたら”ってことはないだろう、という場合は小児科の先生も登場して虐待が背景にないか調べたりするのです。

ただ、骨折した本人はもの言えぬ子供です。なかなか真相究明につながらないことも多いのです。


骨折の部位とか形態によって、虐待が証明できれば、それ以上の虐待を防止することができるかもしれません。

この前見かけた論文で、骨折の部位と、虐待である可能性について触れられていました。


The Radiographic Approach to Child Abuse. [Clin Orthop Relat Res. 2010] - PubMed result

高い特異度で虐待の疑い
骨幹端の角の骨折、後内側の肋骨骨折、胸骨骨折、肩甲骨骨折、棘突起骨折

中等度の特異度で虐待の疑い
多発骨折、骨端離開

低い特異度で虐待の疑い
長管骨の骨折、鎖骨骨折

だそうです。

大腿骨骨幹部骨折などは時々見かけるのですが、虐待くさくないということなのですね。意外でした。

体の中心に近いところの骨折が虐待くさいというなんですね。

2010/07/24

【Lancet】これからの痛み止め薬


痛み止めにはさまざまな種類があります。全国の日本の病院で使われている、代表的なものはロキソニンやボルタレンでしょう。

それに対して比較的最近発売された痛み止めにセレコックスというものがあります。これは選択的COX2阻害薬といって、ロキソニンやボルタレンでしばしば問題になる胃・十二指腸潰瘍、腎障害のリスクを減らせる鎮痛薬です。

今まではハイペンというCOX2阻害薬がありましたが、痛み止めとして切れ味が悪いのであまり使われませんでした。それに対して最近発売されたセレコックスは痛み止めとしての効果も高く、より選択的にCOX2を阻害して副作用を抑えることができると言われています。

ロキソニンやボルタレンはその副作用が広く知られていますので、それらと一緒に胃薬を処方されるのが普通です。そこまでしてロキソニンやボルタレンに多くの医者がこだわっているのは、やはりその効き目からだと思います。両者とも切れ味の鋭いいい薬なのです。

実際には僕も臨床ではロキソニンばかり使っています。


Celecoxib versus omeprazole and diclofenac in pati... [Lancet. 2010]

この論文には、これから痛み止めを処方する時はいつものロキソニンをやめてセレコックスにしようかと思わせる結果が載っています。

32カ国、196施設で変形性関節症や関節リウマチなど関節痛のある患者に対して、6ヶ月間にわたる二重盲検、無作為化試験を行っています。一方の患者にはセレコックス200mgを1日2回、もう一方の患者にはボルタレン徐放剤75mgを1日2回、それに加えて副作用対策でオメプラゾール20mg(いろいろある胃薬の中で一番強力)を1日1回投与しています。


その結果、胃十二指腸における副作用はセレコックス群において有意に低かったそうです。


痛み止めをたくさん処方する立場としては、なるべく副作用が少なくて、効く薬を処方したいと思っています。そう考えると、この論文は朗報に見えます。

ただし、セレコックス200mg1日2回と、ボルタレン徐放剤75mg1日2回が同等の鎮痛効果だとしてなのですが。。

まずはセレコックスの効果を確認する必要がありますので、この論文と同じ量の200mg1日2回を処方してみたいと思います。


ちなみに、ボルタレン徐放剤は日本では1錠32.5mg、1日2回の使用とされています。それなら70mgを1日2回も使えば、いくらPPIを併用していても胃十二指腸潰瘍が起きるの当たり前なのでは?という意見もあると思います。


2010/06/13

未来の医療「医療クラウド」


ソフトバンクの孫社長が未来の医療の形をシンポジウムで語っていました。


驚きました。私自身が「未来の医療はきっとこうなる」と思っていたこととぴったりでした。医療クラウドというものです。

詳しくは一度USTREAMのこの動画を観てみてください。



1. 病院間でひとりの患者情報を共有すること
患者情報はどの病院でも参照できるようにしたほうがいい。その方が無駄な検査は減るし、これまで病院ごとに患者情報を収集していた労力、人的、物的コストが減る。


2. 遠隔地医療の充実
画像検査など、読影を依頼したくても放射線科医がいないとき。そんな時すごく役立つと思う。画像を転送して読影してもらって、そのコメントをもらえばいいわけだ。医療クラウドならそれが可能だろう。
もちろん在宅医療にも役立つだろうことは言うまでもない。


3. 手術支援
たとえばUSTREAMとかを利用して動画を見ながら、それに対して「ここはこうしろ、ああしろ」などの指示を出す。USTREAMの画質がもう少しよくなればそれが可能だと思う。

4. ipadに電子カルテの機能を持たせれば最強
とかく医師の指示がないと動かないのが病院業務。その場にいなくても、指示だけあればいいといったとき、ipadを使ってオーダーを出せれば便利。また、どこでもカルテを書けるというのも便利だ。医療クラウドとipadの組み合わせは最強になるんじゃないか。


そんなわけで医療クラウドと、それを実現しようとしている孫社長、ソフトバンクに期待大です。応援したいと思います。

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