2008/09/28

医療・ヘルスケア ビジネス最前線


医療ビジネスに関する本を読みました。

この本は
”医療にまつわる様々なビジネスの現在と未来、さまざまなビジネスモデルについて解説している本”
です。


企業トップが語る「医療・ヘルスケア」ビジネス最前線―変貌する巨大市場に挑む (東京大学大学院医学系・薬学系協力公開講座)企業トップが語る「医療・ヘルスケア」ビジネス最前線―変貌する巨大市場に挑む (東京大学大学院医学系・薬学系協力公開講座)
(2005/10)
東京大学大学院医学系薬学系協力公開講座「医療経営学概論」木村 廣道

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日本の医療費は約30兆円。
人間ドック、美容外科などの自由診療や健康食品、フィットネスクラブ、保険などの周辺産業を合わせると約70~100兆円の市場です。

まだまだこの市場は伸びる可能性があります。
高齢化が進むということは医療を必要とする人が増えるということです。需要のある所にお金は集まります。
また、財源確保のために、混合診療が認められるようになるかもしれません。
そうすると、今までより自由診療の幅が増え、そこは大きなマーケットになるでしょう。
また、医療は日々イノベーションが探求されている分野です。iPS細胞などの再生医療をめぐり、今後莫大なお金が動くことも必至だと思われます。


この本で取り上げられているビジネスモデルを紹介します。

1.予防医療ビジネス
リゾートホテルと検診施設を融合させた事業です。
富裕層を対象にしています。
富裕層は自分の健康に対してお金をあまり惜しまない傾向にあるようで、利益を上げています。
検診施設には最新の医療機器PETを導入して癌の早期発見に貢献しているといいます。

2.システム構築
セコムが開発している新しいネットワークシステムです。
どういうものかというと、例えば検査画像を1か所に集積し、そこから各医療機関、検査機関で情報の共有をさせようというものです。

3.フィットネスクラブ
若者の健康増進だけではなく、高齢者の健康増進に着目しているところが発想に優れていると思います。
高齢者の会話は若者と違って、健康に関することが多いと思います。
つまり、高齢者ほど自分の健康を気にかけています。たぶんそれは周囲と比較したりして、自分の病気になった姿がより具体的にイメージできるからなんだと思います。
それだけ気にかけている高齢者ですから、自分の健康管理には若者以上に気を使います。
お金を持っている高齢者なら、多少のお金を払っても健康増進のためのフィットネスクラブに通います。
このビジネスモデルで成功している企業(スポーツフレックス)は、フィットネスクラブに医師、クリニックなどの医療機関を介入させて付加価値を高めています。
自分の健康管理に医師が関わってくれると分かれば、より多くの高齢者が積極的にそのフィットネスクラブを利用するでしょう。

4.ヘルスケアサービス
健康診断などの保健事業における「計画→実践→評価」のプロセスに着目したビジネスです。
このプロセスをDisease Management(略してDM)と呼びます。
オムロンヘルスケアはこのプロセスの”計画と評価を支援するソフト”や、実践につながる”行動変容プログラム”を作ってビジネスを行っています。

5.女性医療
日本シエーリング社は海外に比べてまだ日本ではあまり普及していないピルを広めようとしています。
ピルと言うと、効果として避妊を思い浮かべる人も多いと思いますが、それ以外にも月経痛を和らげる作用もあります。
女性の月経痛は男性には分からないとても辛いものです。月経痛により仕事に支障をきたし、場合によっては休職せざるを得ない場合もあります。
厚生労働省によれば、この月経痛による社会的損失は年間約1兆円と言われています。

そう考えるとピルが今以上に普及する可能性はあるかもしれません。

6.健康リスクマネジメント
EAP(Employee Assistance Program)という事業。
社員による健康上の問題から生じる損失はバカになりません。
社員が会社を休んだり、病院にかかったりすることは企業にとって負担です。
さらにはうつ病だと、その原因として労働環境が原因にされることもあり、訴訟では企業が負けるケースも多々あります。
そういう身体的、精神的疾患に対する予防事業がEAPです。
アメリカではすでに40年の歴史がありますが、日本では最近導入された概念です。

7.介護
超高齢化社会に向けて、当然需要の高まる事業です。
教育関係で有名なベネッセが力を入れています。

8.健康食品
コンビニにも売っている特定健康保険用食品です。
ヘルシア緑茶とかエコナオイルとか。
他の類似商品より割高でも、
「何百円かの差なら健康優先でしょ」
と思って買う人は多いようです。

9.ドラッグストア
巨大ドラッグストアのマツモトキヨシです。
ここまで成長できたのには若者に対するマーケティングや、物流システムの構築に鍵があるようです。
そんなマツモトキヨシでもアメリカのドラッグストアに比べると売上にして約10倍違います。
今後も外資のドラッグストアに対抗するために、日本のドラッグストア業界は統合や合併が進んでいく可能性があります。

10.化粧品
アンチエイジングが取りざたされていますが、やはり高齢化が進むにつれアンチエイジング効果のあるものに興味を持つ人もどんどん増えると予想できます。

11.サプリメント
薬じゃないけど、手軽に飲めて効果がありそうな”サプリメント”は多くの人が関心を持っているものだと思います。
ちょっと前に流行った、アンチエイジング効果があると言われているコエンザイムQ10などがありますよね。
私も患者さんによく
「膝の痛みにヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸が効くって聞いたんですが、実際のところどうなんですか?」
と患者さんに聞かれます。

サプリメントというのはそれだけ関心の高い商品なんだと思います。


医療をめぐって本当に様々な事業が行われているんだな、と新鮮な発見がたくさんありました。
もっと病院の外にも目を向けていかなければならないな、と感じました。


2008/09/09

医療崩壊


とても納得できる本でした。
著者は某有名病院の部長(その科のトップ。実際のイメージは部長というよりは取締役みたいな感じかな)です。
医者からの目線で書かれています。

・医師と患者、司法、警察の医療に対する考え方のギャップ
・崩壊したイギリス医療
・立ち去り型サボタージュ(勤務医をやめ、開業医になることを選ぶ医師が増えている。)
・医局制度の問題点と医師のキャリア
・厚生労働省の問題

について主に述べています。
内容を少しずつ、主観的な解釈を加えて公開します。


医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
(2006/05)
小松 秀樹

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考え方のギャップについて

医師は医療を完全安心なものとは思っていないのに対し、患者はおろか、検察、弁護士、警察までもが完璧な医療というものに幻想を抱いている。

例えば手術に関連した医療訴訟があって、ある弁護士はマニュアルがないことを問題視したそうです。マニュアル通りにやれば誰がやってもミスなく、手術を行うことができるのか?
答えはノーです。
難しい手術になればなるほど、術者の経験や勘が必要になります。
これがマニュアル通りやれば出来るんだったら、研修医でも出来てしまいます。
経験を積まなければ出来るようになりません。
一流のシェフになるためには、たくさん経験を積まなければならないのと一緒です。一流シェフが作る料理の過程を全てマニュアル化できたら同じ味が再現できるのでしょうか?



イギリス医療の崩壊について

イギリスの医療では自己負担ゼロです。(医療経済学2
税金でほとんど賄われています。
この制度がどういうことを引き起こしているかと言うと、患者が必要なサービスを必要な時に受けれないという状況が生まれています。
具体的に言うと、自分の主治医を自分で選べないし(行政が決める)、風邪を引いても簡単にアドバイスをされるだけで、いよいよ具合が悪くなったからと言っても、入院まで2,3日待たされるというような状況です。
さらに、手術を受けるのもかなり待たされるので、待っている間に癌が進行するというようなことも起きます。



立ち去り型サボタージュについて

そんな状況では患者にうっぷんが溜まります。あたりまえです。
そうすると怒りの矛先はどこに向かうかと言うと、、、医師です。
暴力事件なんかも起きています。

こんな状況では医師は自国の病院にすらいる気にはなれません。海外に職を求めて移動することになります。


日本の立ち去り型サボタージュは勤務医から開業医への流れです。
待遇や訴訟の問題から開業医になる人が増えています。
ちなみに開業医と勤務医では労働は勤務医の方がきついのに、収入は開業医の方が多いといった逆転現象が起きています。



医局制度の問題点と医師のキャリア

教授を頂点とした縦割り制度ですね。
もちろん、その権力を利用した医局員の再配置はメリットも多いと思いますが、どこか歪んだ構造になっています。
医師として出世をして教授になろうと思ったら、何より論文を書かなければなりません。
論文はもちろんインパクトファクターが高い方がいい(代表格はNature,Sciense,Cellとか)。
インパクトファクターが高い雑誌というのは臨床医学の雑誌ではなく、基礎医学の雑誌に多いのです。そうすると、臨床の研究をやるよりは基礎の研究をやった方が実績につながるので、大学院では基礎の研究をやる、ということになります。
(もちろん、臨床の研究をバンバンやっている大学病院もあるとは思います。)

これってどうなんでしょうか?
基礎の医学研究をするのに医師の免許はいりません。理学部出身の人の方がよっぽどいい研究ができるのではないでしょうか?
それだったら基礎医学ではなく、医師しかできない臨床医学の研究に力を注ぐべきだと私は思います。
また、医師として脂が乗ってきたところに大学院に行って、研究の片手間にアルバイトで臨床をするというのはあまり合理的ではないと思います。



厚生労働省の問題は対応が常に遅いということです。

昨今話題になっている医師不足の問題。
どうしてこんなに切迫した状況になるまで気づかないのでしょうか?

原因の一つに厚生労働省の役人には現場をよく知る役人が少ないことが挙げられます。
医系技官といって医師免許を持った役人もいますよ。
だけど、多くの医系技官は医学部を卒業してすぐに役人になったり臨床の経験が乏しい場合が多いのです。



色々な点で考えさせられる本でした。


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