2008/09/28

医療・ヘルスケア ビジネス最前線


医療ビジネスに関する本を読みました。

この本は
”医療にまつわる様々なビジネスの現在と未来、さまざまなビジネスモデルについて解説している本”
です。


企業トップが語る「医療・ヘルスケア」ビジネス最前線―変貌する巨大市場に挑む (東京大学大学院医学系・薬学系協力公開講座)企業トップが語る「医療・ヘルスケア」ビジネス最前線―変貌する巨大市場に挑む (東京大学大学院医学系・薬学系協力公開講座)
(2005/10)
東京大学大学院医学系薬学系協力公開講座「医療経営学概論」木村 廣道

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日本の医療費は約30兆円。
人間ドック、美容外科などの自由診療や健康食品、フィットネスクラブ、保険などの周辺産業を合わせると約70~100兆円の市場です。

まだまだこの市場は伸びる可能性があります。
高齢化が進むということは医療を必要とする人が増えるということです。需要のある所にお金は集まります。
また、財源確保のために、混合診療が認められるようになるかもしれません。
そうすると、今までより自由診療の幅が増え、そこは大きなマーケットになるでしょう。
また、医療は日々イノベーションが探求されている分野です。iPS細胞などの再生医療をめぐり、今後莫大なお金が動くことも必至だと思われます。


この本で取り上げられているビジネスモデルを紹介します。

1.予防医療ビジネス
リゾートホテルと検診施設を融合させた事業です。
富裕層を対象にしています。
富裕層は自分の健康に対してお金をあまり惜しまない傾向にあるようで、利益を上げています。
検診施設には最新の医療機器PETを導入して癌の早期発見に貢献しているといいます。

2.システム構築
セコムが開発している新しいネットワークシステムです。
どういうものかというと、例えば検査画像を1か所に集積し、そこから各医療機関、検査機関で情報の共有をさせようというものです。

3.フィットネスクラブ
若者の健康増進だけではなく、高齢者の健康増進に着目しているところが発想に優れていると思います。
高齢者の会話は若者と違って、健康に関することが多いと思います。
つまり、高齢者ほど自分の健康を気にかけています。たぶんそれは周囲と比較したりして、自分の病気になった姿がより具体的にイメージできるからなんだと思います。
それだけ気にかけている高齢者ですから、自分の健康管理には若者以上に気を使います。
お金を持っている高齢者なら、多少のお金を払っても健康増進のためのフィットネスクラブに通います。
このビジネスモデルで成功している企業(スポーツフレックス)は、フィットネスクラブに医師、クリニックなどの医療機関を介入させて付加価値を高めています。
自分の健康管理に医師が関わってくれると分かれば、より多くの高齢者が積極的にそのフィットネスクラブを利用するでしょう。

4.ヘルスケアサービス
健康診断などの保健事業における「計画→実践→評価」のプロセスに着目したビジネスです。
このプロセスをDisease Management(略してDM)と呼びます。
オムロンヘルスケアはこのプロセスの”計画と評価を支援するソフト”や、実践につながる”行動変容プログラム”を作ってビジネスを行っています。

5.女性医療
日本シエーリング社は海外に比べてまだ日本ではあまり普及していないピルを広めようとしています。
ピルと言うと、効果として避妊を思い浮かべる人も多いと思いますが、それ以外にも月経痛を和らげる作用もあります。
女性の月経痛は男性には分からないとても辛いものです。月経痛により仕事に支障をきたし、場合によっては休職せざるを得ない場合もあります。
厚生労働省によれば、この月経痛による社会的損失は年間約1兆円と言われています。

そう考えるとピルが今以上に普及する可能性はあるかもしれません。

6.健康リスクマネジメント
EAP(Employee Assistance Program)という事業。
社員による健康上の問題から生じる損失はバカになりません。
社員が会社を休んだり、病院にかかったりすることは企業にとって負担です。
さらにはうつ病だと、その原因として労働環境が原因にされることもあり、訴訟では企業が負けるケースも多々あります。
そういう身体的、精神的疾患に対する予防事業がEAPです。
アメリカではすでに40年の歴史がありますが、日本では最近導入された概念です。

7.介護
超高齢化社会に向けて、当然需要の高まる事業です。
教育関係で有名なベネッセが力を入れています。

8.健康食品
コンビニにも売っている特定健康保険用食品です。
ヘルシア緑茶とかエコナオイルとか。
他の類似商品より割高でも、
「何百円かの差なら健康優先でしょ」
と思って買う人は多いようです。

9.ドラッグストア
巨大ドラッグストアのマツモトキヨシです。
ここまで成長できたのには若者に対するマーケティングや、物流システムの構築に鍵があるようです。
そんなマツモトキヨシでもアメリカのドラッグストアに比べると売上にして約10倍違います。
今後も外資のドラッグストアに対抗するために、日本のドラッグストア業界は統合や合併が進んでいく可能性があります。

10.化粧品
アンチエイジングが取りざたされていますが、やはり高齢化が進むにつれアンチエイジング効果のあるものに興味を持つ人もどんどん増えると予想できます。

11.サプリメント
薬じゃないけど、手軽に飲めて効果がありそうな”サプリメント”は多くの人が関心を持っているものだと思います。
ちょっと前に流行った、アンチエイジング効果があると言われているコエンザイムQ10などがありますよね。
私も患者さんによく
「膝の痛みにヒアルロン酸やコンドロイチン硫酸が効くって聞いたんですが、実際のところどうなんですか?」
と患者さんに聞かれます。

サプリメントというのはそれだけ関心の高い商品なんだと思います。


医療をめぐって本当に様々な事業が行われているんだな、と新鮮な発見がたくさんありました。
もっと病院の外にも目を向けていかなければならないな、と感じました。


2008/09/09

医療崩壊


とても納得できる本でした。
著者は某有名病院の部長(その科のトップ。実際のイメージは部長というよりは取締役みたいな感じかな)です。
医者からの目線で書かれています。

・医師と患者、司法、警察の医療に対する考え方のギャップ
・崩壊したイギリス医療
・立ち去り型サボタージュ(勤務医をやめ、開業医になることを選ぶ医師が増えている。)
・医局制度の問題点と医師のキャリア
・厚生労働省の問題

について主に述べています。
内容を少しずつ、主観的な解釈を加えて公開します。


医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か医療崩壊―「立ち去り型サボタージュ」とは何か
(2006/05)
小松 秀樹

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考え方のギャップについて

医師は医療を完全安心なものとは思っていないのに対し、患者はおろか、検察、弁護士、警察までもが完璧な医療というものに幻想を抱いている。

例えば手術に関連した医療訴訟があって、ある弁護士はマニュアルがないことを問題視したそうです。マニュアル通りにやれば誰がやってもミスなく、手術を行うことができるのか?
答えはノーです。
難しい手術になればなるほど、術者の経験や勘が必要になります。
これがマニュアル通りやれば出来るんだったら、研修医でも出来てしまいます。
経験を積まなければ出来るようになりません。
一流のシェフになるためには、たくさん経験を積まなければならないのと一緒です。一流シェフが作る料理の過程を全てマニュアル化できたら同じ味が再現できるのでしょうか?



イギリス医療の崩壊について

イギリスの医療では自己負担ゼロです。(医療経済学2
税金でほとんど賄われています。
この制度がどういうことを引き起こしているかと言うと、患者が必要なサービスを必要な時に受けれないという状況が生まれています。
具体的に言うと、自分の主治医を自分で選べないし(行政が決める)、風邪を引いても簡単にアドバイスをされるだけで、いよいよ具合が悪くなったからと言っても、入院まで2,3日待たされるというような状況です。
さらに、手術を受けるのもかなり待たされるので、待っている間に癌が進行するというようなことも起きます。



立ち去り型サボタージュについて

そんな状況では患者にうっぷんが溜まります。あたりまえです。
そうすると怒りの矛先はどこに向かうかと言うと、、、医師です。
暴力事件なんかも起きています。

こんな状況では医師は自国の病院にすらいる気にはなれません。海外に職を求めて移動することになります。


日本の立ち去り型サボタージュは勤務医から開業医への流れです。
待遇や訴訟の問題から開業医になる人が増えています。
ちなみに開業医と勤務医では労働は勤務医の方がきついのに、収入は開業医の方が多いといった逆転現象が起きています。



医局制度の問題点と医師のキャリア

教授を頂点とした縦割り制度ですね。
もちろん、その権力を利用した医局員の再配置はメリットも多いと思いますが、どこか歪んだ構造になっています。
医師として出世をして教授になろうと思ったら、何より論文を書かなければなりません。
論文はもちろんインパクトファクターが高い方がいい(代表格はNature,Sciense,Cellとか)。
インパクトファクターが高い雑誌というのは臨床医学の雑誌ではなく、基礎医学の雑誌に多いのです。そうすると、臨床の研究をやるよりは基礎の研究をやった方が実績につながるので、大学院では基礎の研究をやる、ということになります。
(もちろん、臨床の研究をバンバンやっている大学病院もあるとは思います。)

これってどうなんでしょうか?
基礎の医学研究をするのに医師の免許はいりません。理学部出身の人の方がよっぽどいい研究ができるのではないでしょうか?
それだったら基礎医学ではなく、医師しかできない臨床医学の研究に力を注ぐべきだと私は思います。
また、医師として脂が乗ってきたところに大学院に行って、研究の片手間にアルバイトで臨床をするというのはあまり合理的ではないと思います。



厚生労働省の問題は対応が常に遅いということです。

昨今話題になっている医師不足の問題。
どうしてこんなに切迫した状況になるまで気づかないのでしょうか?

原因の一つに厚生労働省の役人には現場をよく知る役人が少ないことが挙げられます。
医系技官といって医師免許を持った役人もいますよ。
だけど、多くの医系技官は医学部を卒業してすぐに役人になったり臨床の経験が乏しい場合が多いのです。



色々な点で考えさせられる本でした。


2008/08/21

医者はどうして後発薬を使いたがらないのか?


今日のニュース
沢井製薬(4555)は「後発薬生産を一斉に拡大」との報道が材料視されるを見て、
このニュースの内容とは直接関係ないのですが、

後発薬に変更不可が4割  処方せんに医師の署名
というニュースと関連した後発薬品に関する話題。


医者はどうして後発薬品を使いたがらないか?

現場の視点から考えてみました。
その答えを2つ考えました。

まず、現在使うことが可能な薬は膨大な量、膨大な種類あります。
現在、医療界には日々新しい薬が登場しています。
新しい薬が登場したら、少なくとも自分の専門分野に関わる薬について、その都度、名前から効能、副作用まで覚えるわけです。当たり前ですが。
後発薬品が先行薬品と比べて効果が同等で、安価であるというのは分かります。
しかし、先行薬品に対する後発薬品の数は一種類ではありません。何種類もあるんです。
そうすると、医者が覚えなければならない薬の数は先行薬品の数×後発薬品となって結構な数になるわけです。

馴染みのない薬はなかなか使うのに気が引けるのが人情です。
また、後発薬品が巷にあふれたら、例えばたくさん薬を飲んでる患者さんが入院した時、その飲んでいる薬を全部調べなければならないので、それだけでも結構な労力になります。
先行薬品だったらしょっちゅう目の前に登場するので、ある程度知っています。だから調べる手間も省けます。



もう一つの理由ですが、
医者にとって後発薬品を処方しても実際には何のメリットもありません。
例えば給料に反映されるとかですね。
そもそも国民医療費のことを一番に考えて臨床をやっている医者はいないんじゃないかと思います。

だったら、作業がより省ける手法を選んでしまいます。


それは医者の余裕のなさを示しているのかもしれません。


じゃあどうすればいいか?

処方箋には基本的に特別な理由がなければ、後発薬品への許可は”可”にする、とか(これは既に行われています。それでも上のニュースによると”不可”にされることが多いみたいですね)
その後発薬品がどの薬の後発なのか、処方箋や全ての医療情報に記載されるようにするとか、もう少し仕組みの変更が必要なんだと思います。
そのためにはオーダリングシステムやカルテの電子化が必要になると思います・・・






2008/08/06

療養病床22万床


平成17年度の総医療費は33兆1289億円

その約3分の1が国からの給付です。


65歳以上老人医療費は総額で平成17年度16.8兆円と総額の過半数(51.0%)を占めています。

年齢によって必要な医療費が全然違うのは当然です。
年をとったら病気になります。病気になったら治療に必要なお金がかかります。

ということは、日本はもう既に高齢化社会に突入しており、高齢化率(65歳以上の割合)は約20%です。これが2055年には高齢化率が約40%になると言われています。

医療費のほとんどを65歳以上で消費するというのに、これから先いったいどれくらい総医療費は増えるのでしょうか。

だから、国は医療費を抑制する手段を色々考えているわけです。


昨日のニュースです。
療養病床、存続22万床に 厚労省方針
療養病床を減らして患者を、医療を行うことができない介護療養型の施設や老人保健施設、自宅に移すことで医療費を抑制しようというのです。コレ、実際には受け入れ先がなくて自宅に退院させられるのが目に見えてます。

気持ちは分かりますが、この方針は患者さんの立場には全く立っていないと思います。
なんとか22万床が継続されて良かったと思います。

実際に入院している患者さんとその家族の気持ちを代弁すると、こうです。

「重い障害を抱えている患者を自宅にどうやって連れて帰れって言うんですか?食事をさせるのも、風呂に入れるのも、用を足すのだって全て介助が要ります。家には年老いた夫と二人暮らしなんです。できるだけ、長く病院に入院させてください。」

こんなような訴えは本当に現場でよく聞かれます。


患者の立場に立った政策が望まれます。



コレに加えて病院の入院日数についてコメントしたいことがありますが、これはまた後日。


2008/07/25

入門医療経済学3


・・・また続きです


入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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薬について

薬の値段の値段は誰が決めているか?
厚生労働省です。

企業にとっては新しく薬を開発した場合、開発料を取り返す必要もありますし、相応の知的財産権は確保されるべきだと思います。
しかし、その間消費者としては割高な薬を処方してもらわなければなりません。
じゃあ特許で守られている期間は何年間なんでしょう?

25年でです。開発期間を除いて、発売後から数えるとだいたい10~15年です。
爆発的に売れる薬を開発したらこの期間は当面高い利益を得ることが出来ます。

この期間を過ぎると、ジェネリック薬品(後発薬品)が参入できるようになります。
効果は同じでも、割安な薬です。

患者さんの立場から見ると、同じ効果なら安い薬の方がいいですよね?

なかなか安い薬が発売されないのにはこういった理由があります。


それにしても製薬会社は儲けてるんですね。
2001年のデータですが、製薬会社一位の武田薬品で売上高10兆円で、なんと売上高利益率が39%です。売上高利益率がとても高いんですね。



さて、ジェネリック薬品と似た響きの言葉、オーファンドラッグっていうのがあります。
珍しい疾患に対する治療薬です。
疾患が珍しいということは、量が売れないからあまり儲からないわけです。
なので、税の優遇措置などがあります。

オーファンドラッグの例にエリスロポエチン製剤があります。
腎性貧血の治療薬ですが、これは元々オーファンドラッグだったんです。
今や日常診療の様々な場面で使われている薬なので、相当な利益を上げた薬ということになります。



薬の流通に関して
医者でありながら情けないことに、薬の流通には薬品会社、薬品卸、病院の三社で成り立っていることを知らなかった・・・

薬品卸と病院が値段の交渉を行う仕組みなんですって。
薬品卸ってのは具体的にはスズケン、クラヤ三星堂などの会社。一兆円くらいの売り上げがあります。

これらの会社は実際には武田薬品などの大手製薬会社が出資しているので、薬品卸と製薬会社のつながりは結構大きいようです。

ってことは結局製薬会社に都合の良い仕組みってことなんでしょうかね。



3回に分けてお送りしてきましたが、とりあえず入門 医療経済学の読書記録は終わりにします。
この本の第1部には応用経済学、厚生経済学的アプローチ、医療需要と医療供給のミクロ分析、健康保険の経済学などなど難しい内容も載っていますが、内容が難解なので今のところやめておきます。

千里の道も一歩から。

もっともっと知識の拡充に努めていきたいと思います。

2008/07/24

入門医療経済学2



入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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世界の医療制度

イギリス
・基本的に患者負担なし
・税金でほとんど賄われている
問題は自己負担がない分、国民に医療の選択権がないこと。
住んでいる地域によって家庭医が決められてしまう。また、手術がなかなか受けられないなどの問題がある。

アメリカ
・国民皆保険ではない
・保険は民間の保険
お金のない国民は保険に加入できない。
なので一応メディケア、メディケイドなどの公的医療保障制度がある。
・それでも医療費の15%は税金で負担されている



病院経営について

病院というのはつくづく特殊な環境だと思います。

現場で働く医師の多くは医局からの派遣という形で病院に勤務しているため、病院の経営にはあまり関心がないのです。医局から評価されるためには通常、論文を書いたり、研究をしたり、そういった活動が必要になりますが、病院の経営をいくら良くしても医局からは評価されないのです。

病院経営について本当に真剣に考えている医師は少ないと思います。

そもそも、多くの医師のモチベーションはそういったコスト削減とか、売上げを上げるとかそういうことがメインではなく、純粋に「患者さんを救いたい」、ということにあるのが普通です。

また、医学部の教育では病院経営のことについては教わりませんし、大病院の一勤務医であれば、経営の良しあしが給料に反映されることもあまりありません。

そのため、病院経営については意識が希薄になります。


最近は少しずつですが、病院全体でコスト削減に取り組まれているようですが、まだまだ現場の医師に十分浸透しているかは疑問です。



以前にも当ブログで取り上げた機能分化の話

一部の患者さんは気付いているかもしれませんが、
一般に急性期医療を担う病院(地域の基幹病院)では、だいたい2週間以内の退院を目指します。
それを超えるようなら療養型の病院に転院するように促されます。
というのも、患者さんとしては退院まで同じ病院で治療を受けたいという気持ちなのが普通でしょうが、平均在院日数が17日以下でないと診療報酬の加算がとれないという病院の理由があります。

救急医療にしても然りです。救急医療をやっていると病院には診療報酬の加算があります。

機能分化を進めるための政策として、紹介率30%以上なら診療報酬の加算があります。外来患者はなるべく地域の開業医で診るようにという狙いです。



医師の方、だいたい病院で上の先生からああしろ、こうしろと言われることにはこういったお金の背景があるようですよ。
最近病院の中で言われていること(例えば、紹介率を上げましょう!とか)と国の政策の関係に注目してみると言葉の裏が見えて面白いかもしれません。


2008/07/23

入門医療経済学1



入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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分かったようで分かりづらいのが医療経済学だと思います。
この本は内科医であり、経済学者の著者によるものです。

著者が医師だからでしょうか、前回読んだやさしい医療経済学とは少し視点が違います。私が求めていた情報により近いと思いました。

出版が少し古いので、データも少し古いです。
概観をつかむには大きな問題ではないと思いますので、気にしないでください。


再び整理していきます。

社会保障の存在理由ですが、
憲法25条より
「すべて国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」
「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障、及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
が元になっています。

これがあるから私たちは安心して生活ができる。セーフティーネットということです。

社会保障の中に教育や医療があります。

国民医療費の合計は31兆円です。その内訳は保険料が15兆円、自己負担が5兆円、税金が10兆円
です。税金が10兆円と3分の1を占めるので、医療費が増えていくことに対して政府はそれを止めようと躍起になります。

そもそも保険の構造に問題があります。高齢者や低所得者の方が病気になるリスクが高いのに保険料は安くなっています。
そりゃー税金で補うか、国が病院に支払うお金を少なくしてしまうかしかなくなりますよね。

なので医療費を抑えるために国は施設の基準を厳しくして、それを満たさないとお金は出さないよ、という風にしてみたり、診療報酬を下げたり、患者自己負担を増やしたり、などなどいろいろ画策しているわけです。

いつも思うのですが、ほんとに他に削れる予算はないんでしょうかね?


本題に戻って、その社会保険ですが、
分類すると

1.医療保険
①健康保険・・・サラリーマン
②国民健康保険・・・自営業の人、無職の人
③船員保険
④共済保険・・・学校の先生が加入


2.年金保険
①厚生年金・・・サラリーマン
②国民年金・・・自営業の人、無職の人
③共済年金・・・学校の先生


3.介護保険


4.雇用保険

5.労災保険



医療保険について
傷病手当金、出産手当金なるものがあるのをご存知ですか?
細かい規定はありますが、
疾病のために4日以上働けなかった場合、健康保険から約6割の給付が出ます。
出産のために働けなくなった場合も約6割の給付があります。

その他にも出産育児一時金、埋葬料、高額療養費などなどあります。

高額療養費なんて、どれだけ高額な医療費がかかったとしても(もちろん保険診療)、一定上限までの自己負担でいいという制度です。
具体的には一般市民税課税世帯で最大負担は7万2千3百円+αまでで、これを超えるお金は健保からバックされます。

たくさんありすぎて覚えきれませんが、これらの知識はある程度あった方が自分の身を守るという意味で良いと思います。

しかし、知らない人はどうなるんでしょう?きちんと保険組合が管理して、余すところなく給付してくれているんでしょうか???


年金について
年金には長い目で見て、金利の変動というリスクがあります。
厚生年金などは金利によりマイナスがでたら、その損失は企業が被ります。
なので、最近は確定拠出型年金というのが導入されてきています。
401Kって聞いたことないですか?あれです。
この制度だと掛け金の運用は企業が提供する投資信託などの運用商品の中から従業員が自己責任で運用しなければなりません。

我々はせっせと毎月年金保険料を納付していますが、それだけでは足りないので3分の1を国が負担しています。

年金には障害基礎年金遺族基礎年金という制度もありますので、知らなかった人は覚えておいた方がいいと思います。条件にはまれば給付が受けれますので。


介護保険について
これは市町村を保険者とし、患者負担は原則1割。最大でも個人の負担は3万7千2百円です。
残りを税金と保険料で半々に負担しています。

被保険者は40~64歳の条件付きの人、65歳以上の人全員で、月約4千円の保険料(地域によっても違います)となります。

給付の程度は、1日当たり30分未満の要支援~110分以上の要介護5まで6段階の介護度に分かれていますが、これは市町村で判定されます。
我々はよく”主治医意見書”の記載を依頼されます。
この意見書を参考に判定されるようなのですが、どの介護度にするかは医師の裁量では決められません。



話は少し変わります。

老人保健制度について
老人の医療費を国民全体で負担することを目的としています。
医療保険に加入している75歳以上が対象。75歳以上なので、ほとんどが国民健康保険加入者。
自己負担原則1割。
残りを税金と保険で半々に負担する。

この制度が後期高齢者医療制度に移行されたということですね。


押さえておきたいポイントがありすぎです。

続く・・・

2008/07/20

やさしい医療経済学4



やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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を読んだ後の読書記録はこれが最後です。


医療費に関連して

これまでの医療費支払いは出来高払いでした。
つまり、検査をすればするほど、投薬をすればするほど報酬がもらえる仕組みです。

医療費抑制の一環としての新しい流れが、DPC制度というものです。
この制度は疾病別に受け取れる報酬が初めから決められるというものです。
これが導入されると、必要以上の入院や治療、検査などが抑制できると見込まれています。
例えば、T大病院なんかはDPCが導入されています。

我々にとってはなんとも窮屈ですが、医療費抑制のために、必要最小限の治療が求められています。


混合診療について

保険外診療って聞いたことありますか?

そう、普通の病院では保険診療で診療しています。それは、保険外診療と保険診療の併用が認められてないからです。これらの併用を混合診療といいます。

保険外診療には新しい、魅力的な治療があります。しかし、それは安全性の確保という意味でまだ十分な知見がなかったりします。収入の少ない患者さんは治療を受けられず、不公平だという意見もあります。

そういう理由で厚生労働省は保険外診療を認めていません。

もう一つ、これが最も大きな理由だと思いますが、
保険外診療が横行すると、保険診療が名ばかりのシステムになってしまいます。
厚生労働省はこれを一番心配しているのではないでしょうか?


しかし、患者さんには最新最良の治療を選ぶ権利があるはずです。
リスクを踏まえて治療を選択する権利が患者さんにあってもいいんじゃないかと思います。

現在混合診療は認められていません。
なので、保険外診療を選択すると、通常は保険で出来るはずの診療まで保険が適用されなくなってしまいます。
もう少しこの規制を緩和したほうが医療費抑制効果もあると思うし、患者さんのためになるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか?

2008/07/19

やさしい医療経済学3


病院で貰う処方箋について(院内処方と院外処方)

みなさん、病院で処方箋(薬の引換券のようなもの)を貰うとき、院内処方とというのと院外処方というのがあるのをご存知ですか?

患者さんからすると、院内処方の方が受診した帰りにすぐに病院内で薬がもらえるので便利と思うかもしれませんが、今、病院は院内処方をなるべく減らすように変わってきています。

院内で処方をすると、それだけ人件費などのコストがかかります。
患者さんにとっても、外来で待って、薬を貰うときに待って、と待ちくたびれる原因となります。

在庫を抱えるのも病院経営にはマイナスです。

なので、普通の大きな病院では院外処方が主流になっています。


この医薬分業の流れは、欧米ではとっくに一般的になっている制度です。




やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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2008/07/18

やさしい医療経済学2


日本の医療が他の国と比べて変わっている点

「機能が未分化である」

アメリカやドイツでは患者はまず、診療所のような町の小規模病院で家庭医に診てもらいます。
そこで、軽症患者と重症患者の最初の振り分けが行われるのです。
軽症であればそのまま家庭医に継続的に診てもらい、
重症だと判断された場合は然るべき施設の整った病院に紹介されます。

現在の日本の病院を見ると、外来ですごくたくさんの患者さんが待っていますよね?
ひたすら待って3分間診療というのはそういった振り分けがされずに、全ての患者が大病院に押し寄せているために起きている現象だと考えられます。

これは、患者さん側から見ても、医師から見ても望ましくない状況だと思います。
散々待った挙句、3分間診療では患者さんもやりきれません。
医師も少なからずそういった患者さんの気持ちが分かるだけに辛いんです。
さらに、医師には外来診療以外にも仕事は山ほどあります。

大病院には大病院の役割があります。
十分な施設を生かした専門的な治療、入院治療、手術治療などは大病院にしかできません。
地域と基幹病院で役割を分け、それぞれが長所を生かした医療サービスを行っていくのが賢い方法だと思います。

そこで問題が一つ。
患者さんの立場から見ると、同じ医療費を払うのであればいい病院で診てもらいたいと思うのが筋ですよね?しかも、地域の病院に初めに行ってから大病院を紹介されるのでは二度手間だし、お金も余分にかかります。
そういう心理を考えると現在のシステムでは大病院に患者さんが殺到するのもやむを得ないと思います。

この状況を打開するためには何らかのシステム改革が必要です。
例えば、既に大学病院や一部の病院で既に導入されていますが、紹介状がない場合は初診料5000円がかかります、というような制度。
しかし、こういう制度があってもまだ地域と基幹病院との間で十分な機能分化がされているとは思えません。

課題山積です。

続く・・・


やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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2008/07/16

やさしい医療経済学1


医療経済学について。


やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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医療制度ってほんとややこしいと思います。

要点を私的な視点からまとめます。


お金の流れってどうなってるんでしょうか?

我々は医療機関を受診して、医療サービスを受けます。
医療機関は医療行為に見合った対価を受け取りますが、では、お金はどこから出てくるんでしょうか?
我々は通常病院に行っても3割しかお金を払っていません。
では残りの7割はどこが負担しているのか?

これは、医療保険と公費(国庫負担・国庫補助金など)が負担しているんです。

ちなみに2005年度の統計では国民医療費(介護費を含む)が39兆円で、そのうち公費負担が15兆円(37%)、保険料からの負担が19兆円(49%)です。

医療保険には通常会社勤めしている人が払っている「健康保険」や、公務員対象の「国家公務員等共済組合」、自営業の人は「国民健康保険」に加入していると思います。

我々が給料から天引きされているお金の中にはこのような保険料が含まれているんですね。


ここからが、特殊な点ですが、医療機関は行った医療行為を審査されるんです。
それでOKが出れば給付がおります。つまり、医療機関と保険者(保険組合)の間に仲介する機関があるんです。
こういう審査をする機関を審査支払機関といいます。

勤務医(開業医もか・・)は審査(通称レセプト)を通すために、行った医療行為について、病名を付けたり、どうしてこの治療を行ったかを文書で報告しなければなりません。
月末はこの書類作業をやらねばならず、忙しい勤務医にとっては正直負担だと思います。
しかも、レセプトをやるかどうかは医師の報酬に全く反映されません。
つまり、適当にやってもちゃんとやっても同じ給料なんです。
そう考えると医師のレセプトに対するインセンティブは開業医でなければ、低くて仕方ないと思います。


しかし、このシステム自体は保険者と被保険者の間を取り持つ中間的な存在なので、それはそれで大事な役割を果たしていると思われます。
これがないと、保険者と医療機関との間で、報酬について折り合いがつかなかった場合、民事訴訟しか解決手段がなくなってしまいます。


でも・・・制度があるのはいいとして、やはり医師のレセプトチェックの労力はなんとか改善してほしいところです。


続く・・・

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