2008/07/25

入門医療経済学3


・・・また続きです


入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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薬について

薬の値段の値段は誰が決めているか?
厚生労働省です。

企業にとっては新しく薬を開発した場合、開発料を取り返す必要もありますし、相応の知的財産権は確保されるべきだと思います。
しかし、その間消費者としては割高な薬を処方してもらわなければなりません。
じゃあ特許で守られている期間は何年間なんでしょう?

25年でです。開発期間を除いて、発売後から数えるとだいたい10~15年です。
爆発的に売れる薬を開発したらこの期間は当面高い利益を得ることが出来ます。

この期間を過ぎると、ジェネリック薬品(後発薬品)が参入できるようになります。
効果は同じでも、割安な薬です。

患者さんの立場から見ると、同じ効果なら安い薬の方がいいですよね?

なかなか安い薬が発売されないのにはこういった理由があります。


それにしても製薬会社は儲けてるんですね。
2001年のデータですが、製薬会社一位の武田薬品で売上高10兆円で、なんと売上高利益率が39%です。売上高利益率がとても高いんですね。



さて、ジェネリック薬品と似た響きの言葉、オーファンドラッグっていうのがあります。
珍しい疾患に対する治療薬です。
疾患が珍しいということは、量が売れないからあまり儲からないわけです。
なので、税の優遇措置などがあります。

オーファンドラッグの例にエリスロポエチン製剤があります。
腎性貧血の治療薬ですが、これは元々オーファンドラッグだったんです。
今や日常診療の様々な場面で使われている薬なので、相当な利益を上げた薬ということになります。



薬の流通に関して
医者でありながら情けないことに、薬の流通には薬品会社、薬品卸、病院の三社で成り立っていることを知らなかった・・・

薬品卸と病院が値段の交渉を行う仕組みなんですって。
薬品卸ってのは具体的にはスズケン、クラヤ三星堂などの会社。一兆円くらいの売り上げがあります。

これらの会社は実際には武田薬品などの大手製薬会社が出資しているので、薬品卸と製薬会社のつながりは結構大きいようです。

ってことは結局製薬会社に都合の良い仕組みってことなんでしょうかね。



3回に分けてお送りしてきましたが、とりあえず入門 医療経済学の読書記録は終わりにします。
この本の第1部には応用経済学、厚生経済学的アプローチ、医療需要と医療供給のミクロ分析、健康保険の経済学などなど難しい内容も載っていますが、内容が難解なので今のところやめておきます。

千里の道も一歩から。

もっともっと知識の拡充に努めていきたいと思います。

2008/07/24

入門医療経済学2



入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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世界の医療制度

イギリス
・基本的に患者負担なし
・税金でほとんど賄われている
問題は自己負担がない分、国民に医療の選択権がないこと。
住んでいる地域によって家庭医が決められてしまう。また、手術がなかなか受けられないなどの問題がある。

アメリカ
・国民皆保険ではない
・保険は民間の保険
お金のない国民は保険に加入できない。
なので一応メディケア、メディケイドなどの公的医療保障制度がある。
・それでも医療費の15%は税金で負担されている



病院経営について

病院というのはつくづく特殊な環境だと思います。

現場で働く医師の多くは医局からの派遣という形で病院に勤務しているため、病院の経営にはあまり関心がないのです。医局から評価されるためには通常、論文を書いたり、研究をしたり、そういった活動が必要になりますが、病院の経営をいくら良くしても医局からは評価されないのです。

病院経営について本当に真剣に考えている医師は少ないと思います。

そもそも、多くの医師のモチベーションはそういったコスト削減とか、売上げを上げるとかそういうことがメインではなく、純粋に「患者さんを救いたい」、ということにあるのが普通です。

また、医学部の教育では病院経営のことについては教わりませんし、大病院の一勤務医であれば、経営の良しあしが給料に反映されることもあまりありません。

そのため、病院経営については意識が希薄になります。


最近は少しずつですが、病院全体でコスト削減に取り組まれているようですが、まだまだ現場の医師に十分浸透しているかは疑問です。



以前にも当ブログで取り上げた機能分化の話

一部の患者さんは気付いているかもしれませんが、
一般に急性期医療を担う病院(地域の基幹病院)では、だいたい2週間以内の退院を目指します。
それを超えるようなら療養型の病院に転院するように促されます。
というのも、患者さんとしては退院まで同じ病院で治療を受けたいという気持ちなのが普通でしょうが、平均在院日数が17日以下でないと診療報酬の加算がとれないという病院の理由があります。

救急医療にしても然りです。救急医療をやっていると病院には診療報酬の加算があります。

機能分化を進めるための政策として、紹介率30%以上なら診療報酬の加算があります。外来患者はなるべく地域の開業医で診るようにという狙いです。



医師の方、だいたい病院で上の先生からああしろ、こうしろと言われることにはこういったお金の背景があるようですよ。
最近病院の中で言われていること(例えば、紹介率を上げましょう!とか)と国の政策の関係に注目してみると言葉の裏が見えて面白いかもしれません。


2008/07/23

入門医療経済学1



入門 医療経済学入門 医療経済学
(2004/03)
柿原 浩明

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分かったようで分かりづらいのが医療経済学だと思います。
この本は内科医であり、経済学者の著者によるものです。

著者が医師だからでしょうか、前回読んだやさしい医療経済学とは少し視点が違います。私が求めていた情報により近いと思いました。

出版が少し古いので、データも少し古いです。
概観をつかむには大きな問題ではないと思いますので、気にしないでください。


再び整理していきます。

社会保障の存在理由ですが、
憲法25条より
「すべて国民は健康で文化的な最低限の生活を営む権利を有する」
「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障、及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」
が元になっています。

これがあるから私たちは安心して生活ができる。セーフティーネットということです。

社会保障の中に教育や医療があります。

国民医療費の合計は31兆円です。その内訳は保険料が15兆円、自己負担が5兆円、税金が10兆円
です。税金が10兆円と3分の1を占めるので、医療費が増えていくことに対して政府はそれを止めようと躍起になります。

そもそも保険の構造に問題があります。高齢者や低所得者の方が病気になるリスクが高いのに保険料は安くなっています。
そりゃー税金で補うか、国が病院に支払うお金を少なくしてしまうかしかなくなりますよね。

なので医療費を抑えるために国は施設の基準を厳しくして、それを満たさないとお金は出さないよ、という風にしてみたり、診療報酬を下げたり、患者自己負担を増やしたり、などなどいろいろ画策しているわけです。

いつも思うのですが、ほんとに他に削れる予算はないんでしょうかね?


本題に戻って、その社会保険ですが、
分類すると

1.医療保険
①健康保険・・・サラリーマン
②国民健康保険・・・自営業の人、無職の人
③船員保険
④共済保険・・・学校の先生が加入


2.年金保険
①厚生年金・・・サラリーマン
②国民年金・・・自営業の人、無職の人
③共済年金・・・学校の先生


3.介護保険


4.雇用保険

5.労災保険



医療保険について
傷病手当金、出産手当金なるものがあるのをご存知ですか?
細かい規定はありますが、
疾病のために4日以上働けなかった場合、健康保険から約6割の給付が出ます。
出産のために働けなくなった場合も約6割の給付があります。

その他にも出産育児一時金、埋葬料、高額療養費などなどあります。

高額療養費なんて、どれだけ高額な医療費がかかったとしても(もちろん保険診療)、一定上限までの自己負担でいいという制度です。
具体的には一般市民税課税世帯で最大負担は7万2千3百円+αまでで、これを超えるお金は健保からバックされます。

たくさんありすぎて覚えきれませんが、これらの知識はある程度あった方が自分の身を守るという意味で良いと思います。

しかし、知らない人はどうなるんでしょう?きちんと保険組合が管理して、余すところなく給付してくれているんでしょうか???


年金について
年金には長い目で見て、金利の変動というリスクがあります。
厚生年金などは金利によりマイナスがでたら、その損失は企業が被ります。
なので、最近は確定拠出型年金というのが導入されてきています。
401Kって聞いたことないですか?あれです。
この制度だと掛け金の運用は企業が提供する投資信託などの運用商品の中から従業員が自己責任で運用しなければなりません。

我々はせっせと毎月年金保険料を納付していますが、それだけでは足りないので3分の1を国が負担しています。

年金には障害基礎年金遺族基礎年金という制度もありますので、知らなかった人は覚えておいた方がいいと思います。条件にはまれば給付が受けれますので。


介護保険について
これは市町村を保険者とし、患者負担は原則1割。最大でも個人の負担は3万7千2百円です。
残りを税金と保険料で半々に負担しています。

被保険者は40~64歳の条件付きの人、65歳以上の人全員で、月約4千円の保険料(地域によっても違います)となります。

給付の程度は、1日当たり30分未満の要支援~110分以上の要介護5まで6段階の介護度に分かれていますが、これは市町村で判定されます。
我々はよく”主治医意見書”の記載を依頼されます。
この意見書を参考に判定されるようなのですが、どの介護度にするかは医師の裁量では決められません。



話は少し変わります。

老人保健制度について
老人の医療費を国民全体で負担することを目的としています。
医療保険に加入している75歳以上が対象。75歳以上なので、ほとんどが国民健康保険加入者。
自己負担原則1割。
残りを税金と保険で半々に負担する。

この制度が後期高齢者医療制度に移行されたということですね。


押さえておきたいポイントがありすぎです。

続く・・・

2008/07/20

やさしい医療経済学4



やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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を読んだ後の読書記録はこれが最後です。


医療費に関連して

これまでの医療費支払いは出来高払いでした。
つまり、検査をすればするほど、投薬をすればするほど報酬がもらえる仕組みです。

医療費抑制の一環としての新しい流れが、DPC制度というものです。
この制度は疾病別に受け取れる報酬が初めから決められるというものです。
これが導入されると、必要以上の入院や治療、検査などが抑制できると見込まれています。
例えば、T大病院なんかはDPCが導入されています。

我々にとってはなんとも窮屈ですが、医療費抑制のために、必要最小限の治療が求められています。


混合診療について

保険外診療って聞いたことありますか?

そう、普通の病院では保険診療で診療しています。それは、保険外診療と保険診療の併用が認められてないからです。これらの併用を混合診療といいます。

保険外診療には新しい、魅力的な治療があります。しかし、それは安全性の確保という意味でまだ十分な知見がなかったりします。収入の少ない患者さんは治療を受けられず、不公平だという意見もあります。

そういう理由で厚生労働省は保険外診療を認めていません。

もう一つ、これが最も大きな理由だと思いますが、
保険外診療が横行すると、保険診療が名ばかりのシステムになってしまいます。
厚生労働省はこれを一番心配しているのではないでしょうか?


しかし、患者さんには最新最良の治療を選ぶ権利があるはずです。
リスクを踏まえて治療を選択する権利が患者さんにあってもいいんじゃないかと思います。

現在混合診療は認められていません。
なので、保険外診療を選択すると、通常は保険で出来るはずの診療まで保険が適用されなくなってしまいます。
もう少しこの規制を緩和したほうが医療費抑制効果もあると思うし、患者さんのためになるんじゃないかと思うのですが、いかがでしょうか?

2008/07/19

やさしい医療経済学3


病院で貰う処方箋について(院内処方と院外処方)

みなさん、病院で処方箋(薬の引換券のようなもの)を貰うとき、院内処方とというのと院外処方というのがあるのをご存知ですか?

患者さんからすると、院内処方の方が受診した帰りにすぐに病院内で薬がもらえるので便利と思うかもしれませんが、今、病院は院内処方をなるべく減らすように変わってきています。

院内で処方をすると、それだけ人件費などのコストがかかります。
患者さんにとっても、外来で待って、薬を貰うときに待って、と待ちくたびれる原因となります。

在庫を抱えるのも病院経営にはマイナスです。

なので、普通の大きな病院では院外処方が主流になっています。


この医薬分業の流れは、欧米ではとっくに一般的になっている制度です。




やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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2008/07/18

やさしい医療経済学2


日本の医療が他の国と比べて変わっている点

「機能が未分化である」

アメリカやドイツでは患者はまず、診療所のような町の小規模病院で家庭医に診てもらいます。
そこで、軽症患者と重症患者の最初の振り分けが行われるのです。
軽症であればそのまま家庭医に継続的に診てもらい、
重症だと判断された場合は然るべき施設の整った病院に紹介されます。

現在の日本の病院を見ると、外来ですごくたくさんの患者さんが待っていますよね?
ひたすら待って3分間診療というのはそういった振り分けがされずに、全ての患者が大病院に押し寄せているために起きている現象だと考えられます。

これは、患者さん側から見ても、医師から見ても望ましくない状況だと思います。
散々待った挙句、3分間診療では患者さんもやりきれません。
医師も少なからずそういった患者さんの気持ちが分かるだけに辛いんです。
さらに、医師には外来診療以外にも仕事は山ほどあります。

大病院には大病院の役割があります。
十分な施設を生かした専門的な治療、入院治療、手術治療などは大病院にしかできません。
地域と基幹病院で役割を分け、それぞれが長所を生かした医療サービスを行っていくのが賢い方法だと思います。

そこで問題が一つ。
患者さんの立場から見ると、同じ医療費を払うのであればいい病院で診てもらいたいと思うのが筋ですよね?しかも、地域の病院に初めに行ってから大病院を紹介されるのでは二度手間だし、お金も余分にかかります。
そういう心理を考えると現在のシステムでは大病院に患者さんが殺到するのもやむを得ないと思います。

この状況を打開するためには何らかのシステム改革が必要です。
例えば、既に大学病院や一部の病院で既に導入されていますが、紹介状がない場合は初診料5000円がかかります、というような制度。
しかし、こういう制度があってもまだ地域と基幹病院との間で十分な機能分化がされているとは思えません。

課題山積です。

続く・・・


やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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2008/07/16

やさしい医療経済学1


医療経済学について。


やさしい医療経済学 第2版やさしい医療経済学 第2版
(2008/04/07)
大内 講一

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医療制度ってほんとややこしいと思います。

要点を私的な視点からまとめます。


お金の流れってどうなってるんでしょうか?

我々は医療機関を受診して、医療サービスを受けます。
医療機関は医療行為に見合った対価を受け取りますが、では、お金はどこから出てくるんでしょうか?
我々は通常病院に行っても3割しかお金を払っていません。
では残りの7割はどこが負担しているのか?

これは、医療保険と公費(国庫負担・国庫補助金など)が負担しているんです。

ちなみに2005年度の統計では国民医療費(介護費を含む)が39兆円で、そのうち公費負担が15兆円(37%)、保険料からの負担が19兆円(49%)です。

医療保険には通常会社勤めしている人が払っている「健康保険」や、公務員対象の「国家公務員等共済組合」、自営業の人は「国民健康保険」に加入していると思います。

我々が給料から天引きされているお金の中にはこのような保険料が含まれているんですね。


ここからが、特殊な点ですが、医療機関は行った医療行為を審査されるんです。
それでOKが出れば給付がおります。つまり、医療機関と保険者(保険組合)の間に仲介する機関があるんです。
こういう審査をする機関を審査支払機関といいます。

勤務医(開業医もか・・)は審査(通称レセプト)を通すために、行った医療行為について、病名を付けたり、どうしてこの治療を行ったかを文書で報告しなければなりません。
月末はこの書類作業をやらねばならず、忙しい勤務医にとっては正直負担だと思います。
しかも、レセプトをやるかどうかは医師の報酬に全く反映されません。
つまり、適当にやってもちゃんとやっても同じ給料なんです。
そう考えると医師のレセプトに対するインセンティブは開業医でなければ、低くて仕方ないと思います。


しかし、このシステム自体は保険者と被保険者の間を取り持つ中間的な存在なので、それはそれで大事な役割を果たしていると思われます。
これがないと、保険者と医療機関との間で、報酬について折り合いがつかなかった場合、民事訴訟しか解決手段がなくなってしまいます。


でも・・・制度があるのはいいとして、やはり医師のレセプトチェックの労力はなんとか改善してほしいところです。


続く・・・

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