2009/12/19

胸鎖関節脱臼


The New England Journal of Medicine On line

より

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こりゃすごい。胸鎖関節の脱臼だ。矢印の部位が病変。

日常診療でもあまりみかけない。

左の写真を見ると、鎖骨が前に飛び出しているのがわかる。

原因で一番多いのは虐待だそう。例えばこの症例では受傷しているのは右の鎖骨。この場合は右手を後ろに回した状態で、右側から右肩に強い外力が加わることで起こるそうな。

治療は麻酔をかけて右手を後下方に引っ張ってえいっと出っ張った鎖骨を元の位置に戻す。

手術せずに治すことが多く、この症例の場合、リハビリをやって、大きな合併症を残さずに右腕が再び使えるようになったそうですよ。

 >> NEJM Online: Anterior Sternal Dislocation

2009/12/04

骨折の治癒過程


骨が治るまでにはすごく時間がかかるのでいつもじれったい思いをしています。

初めて整形外科で骨折の治療をうける患者さんならなおさらでしょう。

例えば足の骨を折って手術したとしても、体重をかけられるようになるのは手術してから4週間~6週間くらいたってからのことが多いです。

今日は骨折の治癒過程についてのおさらい

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0.骨折


1.初期反応
骨折が起きたら出血するので、血腫ができる。

血腫に接する骨膜や周囲軟部組織の上で未分化な細胞が増殖する。

マクロファージがわさわさと寄ってきて、線維性の血餅として肉芽組織に変化させる。

この肉芽組織から、また、この肉芽組織を足場にして骨芽細胞や軟骨細胞の前駆細胞が出現する。


2.膜性骨化
骨芽細胞により骨基質が合成させる。

この過程では軟骨形成は介さない。


3.軟骨形成
次の過程に軟骨形成がある。

膜性骨化が成熟するにしたがって、肉芽組織にみられる未分化間葉系細胞が分化して軟骨基質を合成する。


4.内軟骨性骨化
軟骨からの骨形成が中心。この時期には軟骨と骨が骨折部で混在した状態。


整形外科クルズス

ここから先は骨折部で軟骨が骨に置き換わるまで延々とリモデリングが続く。

けっこう複雑です。骨ができるまでの過程には骨芽細胞からダイレクトに骨基質ができる過程と、軟骨から骨が形成される過程と二通りあるわけですね。

2009/11/13

予防しよう、エコノミークラス症候群


肺塞栓症が起きるとそのうち3分の1が死亡に至り、しかもその約43%が1時間以内に死亡すると言われています。

この肺塞栓症、以前サッカー日本代表だった高原選手がなった病気として有名です。いわゆるエコノミークラス症候群というやつです。

そうです。エコノミークラス症候群というやつは、長時間飛行機に乗っているときに起こることがあります。

長時間同じ姿勢で椅子に座っていると、ふくらはぎのあたりに血栓ができて、それがちょっと動いた拍子なんかに肺に飛んでいってしまうというわけです。

海外旅行などで飛行機に乗る時はだいたい長時間同じ姿勢でいることが多いですし、トイレにいちいち立つのも面倒だから水分の摂取を控えたりなんかして脱水気味になります。

そうすることでエコノミークラス症候群になるリスクがそろってしまうんですね。名前はエコノミーとなってますけど、ビジネスクラスに乗ったら起きないわけではないですよ。長時間同じ姿勢でいれば何クラスでも起こります。

このエコノミークラス症候群は整形外科の手術に関連した大きな合併症の一つとなっています。さっきも書いたようにこの合併症は起きたら大変ですから、起こらないように色々な工夫がされています。

なんといっても予防が大切ですが、先日の日本リハビリテーション医学会誌でその予防法についての論文がありました。これは一般向けに応用可能な内容だったので紹介します。飛行機に長時間乗る時なんかに役立ちますよ。

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済生会山形済生病院の石井政次先生の報告です。


これを見ると、足首を自分で上に反らす運動というのが一番効果的みたいですね。足にとどこおった血液がグングン体の中心に戻っていくようです。自分で足を反らせなければ、手でモミモミとマッサージするだけでもいいのですね。

上の図に書いてあるAVインパルスやフロートロンというのは間欠的に足を締めつけてくれる機械ポンプのことです。


つけくわえておくと、脱水にならないように水分を意識して多めにとるということや、弾性ストッキングというちょっときつめのストッキングをはいておくのも予防に有効ですからね。





2009/10/22

人工関節と感染 J Bone Joint Surg Am. 2009 Oct;91(10):2480-90.


整形外科、というか全ての外科系の科では手術に伴う感染のことが気になると思います。

特に整形外科では、プレートやスクリュー、髄内釘などのインプラントを体内に入れて骨を固定します。

医学の進歩が著しいとはいえ、そういったインプラントそのものには免疫能がありません。なので、インプラントに細菌が感染すると、なかなか大変なことになります。

場合によってはせっかく入れたインプラントでも挿入に抜かざるをえない場合があります。これは最悪のシナリオですが。

抗生物質があるじゃないか、と抗生物質を手術前後に使っても、そのリスクはゼロにはなりません。


整形外科の手術の中でも特に人工関節における細菌感染はいまだ悩みの種です。

今回読んでみた論文はそんな人工関節の感染にまつわる話でした。メモ代わりにエントリーしておきます。



Current Infection Rates Associated with Elective Primary Total Hip and Knee Arthroplasty

 初回の人工股関節全置換術(THA)と人工膝関節全置換術(TKA)の感染率はTHAで0.25%~1.0%、TKAで0.4%~2%である。


 Historical Perspective: Investigations of the Role of Prophylactic Antibiotics in General and Orthopaedic Surgery

 抗生剤の予防投与を行ったことで、感染率が8.7%から1.7%に下がった例がある。つまり、抗生剤の予防投与は有効である。

↑今やあたりまえ。


Other Measures to Reduce Infection Rates

 感染予防にクリーンルーム、清潔ガウン、二重手袋を使うのは有効である。

↑これも今やあたりまえ。


Common Causes of Surgical Site Infections in Hip and Knee Arthroplasty

  多いのは黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)や表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)という菌種。


Prophylactic Antibiotics in Institutions with Low Bacterial Resistance

 よく使っているセファゾリンはグラム陽性球菌に有効なだけでなく、骨、滑膜、筋肉、血腫への組織移行性もよい。

 セファゾリンでアレルギーを起こす場合はクリンダマイシンがよくつかわれている。


Dosage of Parenteral Antibiotic Prophylaxis

 セファゾリンなら一回1g(体重80kg以下)、体重80kg以上なら一回2g。
 クリンダマイシンなら1回600~900mg。

 手術が長引くようならセファゾリンは2時間から5時間ごとに投与を繰り返すこと。

↑忘れがちなので覚えておきたいですね。


Duration of Parenteral Antibiotic Prophylaxis

 AAOSは種種の報告から術後24時間を超えて抗生剤投与を続けることを推奨しない。長く投与することの有効性が証明されていないということ。

↑この辺、年配の先生たちはいまだに受け入れられないみたいです。術後2,3日もしくは術後1週間という長い期間抗生剤を投与している先生もいます。


Changing Epidemiology of Staphylococcal Infections

 MRSAが増えていると。MRSAというのは抗生物質が効きづらくなった黄色ブドウ球菌の耐性菌です。

↑MRSAはやっかいです。薬がないわけではないのですが、治療に難渋することが多いと思います。


Prophylactic Antibiotics in Institutions with High Bacterial Resistance

 予防的にバンコマイシンを使うことに関しては議論の余地が残る。
 AAOSはβラクタムアレルギーの患者に限って使用するべきと推奨している。
 もしくはMRSAの感染率が高い施設。

↑バンコマイシンがMRSAの治療薬になります。


Role of Screening for Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus

 鼻腔のMRSAを除菌をしても術野の感染は減らない。

↑MRSAを保有していることと、手術部位がMRSAに感染するということは別問題のようです。


Local Antibiotic Prophylaxis

 抗生剤入りのセメントは感染予防によさそうです。

↑整形外科では手術中にセメントを使って固定したりします。


 >>Prophylactic antibiotics in hip and knee arthroplasty. Meehan J, Jamali AA, Nguyen H. J Bone Joint Surg Am. 2009 Oct;91(10):2480-90.


抗生剤の予防投与は手術中の血中濃度を高く保つことが大切。そして、術後は24時間以内の血中濃度が保てれば、それ以降は抗生剤投与は不要ということです。

セファゾリンでアレルギーを起こすなら、クリンダマイシンを使います。MRSAの発症率が高い施設では躊躇くなくバンコマイシンを使うことが必要です。


このあたりのことは明日からの臨床で使えそうです。


2009/10/12

RICE

整形外科の外来に来る患者さんの数は天候によって左右されます。特に台風や大雨のように足元が悪くなると外来に来る患者数が減るんですよね。いつもは患者さんでごった返している待合室も昨日だけは人数が少なかったと思います。

さて、今日は捻挫や打撲、骨折を受傷したときに全ての人が知っておいた方がよいことを書いておきます。

怪我をしたらすぐに行うようにしてください。

  • Rest(安静)
  • Ice(冷却)
  • Compression(圧迫)
  • Elevate(挙上)
頭文字をとってRICE(ライス)です。スポーツをやっていた人なら知ってるかもしれませんね。


Rest(安静)というのは歩き回ったりせずに横になって休んでおくとかそういうことです。動き回っていると余計に痛くなってきますよ。


Ice(冷却)はビニール袋に氷と水を入れてその袋を患部にあてるというものです。氷水を入れておく専用の袋なんかも市販されていますね。

Ice&Hot アイスバッグ(氷のうタイプ) LP784MIce&Hot アイスバッグ(氷のうタイプ) LP784M
(2005/06/27)
LPサポーター

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アイスノンは簡単でいいんですけど、すぐにあったまってしまうのが問題です。


Compression(圧迫)は包帯などで少し強めに圧迫しておく、ということです。

FC圧迫固定包帯 L 足首・足用 7.5cm*4.5mFC圧迫固定包帯 L 足首・足用 7.5cm*4.5m
(2004/10/20)
不明

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Elevate(挙上)は患部を心臓より高い位置に上げておく、ということです。心臓より、というのが大事な点です。


怪我をしてすぐに病院に行っても、結構な時間待たされることが多いと思います。すぐに診察してくれるのが理想ですが、対応が遅いと腹を立てるだけでなく、できることをやっておいた方が自分のためだと思います。

また、病院でギブスを巻いてもらっても、手術をしてもその直後に必ずやることはこのRICEです。


基本的かつ効果的な初期治療です。覚えておいて損はないと思いますよ。

2009/10/02

踵(かかと)の痛みについて


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踵の痛みの話です。

普通は一時的なものが多くて、慢性化することは少ないですし、ましてや手術になることはほとんどないでしょう。

病態と対処法について一般向けにまとまっていたのでご紹介。





Stone bruise
これは石を踏みつけてできた傷のこと。英語ではこんな風に言うんですね


Plantar fasciitis (subcalcaneal pain)
これ結構多いんじゃないかなー。日本語では足底腱膜炎と言います。日常診療でもよく見かけます。


Heel spur
踵に骨棘というものできる病態です。骨棘というのは靱帯の付着部などの場所で、もともと骨がなかったところに骨ができる病態です。踵の場合はアキレス腱が踵の骨にくっつくところによくできます。これも結構見かけますよ。特に高齢になるほど多いですね。


治療はどれもだいたい同じなんです。手術になることはほとんどありません。このあたりを覚えておけばまずは応急処置としては十分ですね。

  • 壁に背中と踵をつけた状態にしてアキレス腱を伸ばすストレッチをする。その次に今度はつま先立ちで立つ。これもストレッチになります。
  • 痛みや腫れに対して、飲み薬や貼り薬、塗り薬などの非ステロイド性消炎鎮痛薬を使う。薬は病院に行かないともらえないかな。
  • 炎症を抑えるためにアイシングをする。これは急な痛みの対応としては基本です。
  • 3/8" or 1/2"くらいの踵装具を靴の中に入れる。こういうのは整形外科に行かないと分からないかもしれませんね。



2009/09/26

手根管症候群の治療


lancet





という論文から。

日常診療でもよく遭遇する手根管症候群の話題です。

手首のあたりで正中神経という神経が締めつけられて起こる疾患です。指がしびれたり痛くなったり、力が入らなくなったりします。

手根管症候群 - goo ヘルスケア

治療は注射などの保存治療か手術治療のどちらかになります。

今回のこの論文では保存治療よりも手術治療の方がいいですよ、というようなことが書かれています。

まあ、この結果自体に目新しいものはありませんね。普通は注射などの保存治療をしばらくやってみて、ダメなら手術治療になりますから。

みんながそうだろうと思っていることを、きちんとランダマイズドトライアルで証明したところが素晴らしいですね。


詳しく知りたい方は原文をあたってみてくださいね。




2009/08/28

手首の骨折(橈骨遠位端骨折) 最近の知見


ここで紹介する論文はアメリカでの調査なのですが、日本の今後というか現状にもあてはまりそうだったので読んでみました。

手関節(手首)の骨折は日常診療でもよく見かけます。common diseaseならぬcommon fractureだと思います。





手関節の骨折は伝統的に手術でない治療、つまり徒手整復とギブスによる治療が行われてきた。

現在もその傾向は変わらないが、2000年ころから手術による治療が増えてきた。

それはロッキングプレートという、骨どうしを強固に固定できるシステムが開発されるようになってきたからだ。これにより多少骨がすかすかな骨密度の低い高齢者にもプレート固定ができるようになった。

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実際に手関節の骨折で手術になった人の割合は1996年には3%だったのが、2005年には16%になっている。

まだまだギブス治療の方が多いが、今後さらに手術となる症例が増えるかもしれない。

奇妙に思われるかもしれないが、手術で治療するかギブスで治療するかは、骨折型による厳密な区分けよりも治療にあたる医師の裁量による。

どちらの治療法を選択しても直すことはできるからだ。要はどこまでの機能を求めるかという点にある。

手の外科を専門とする整形外科医なら手術治療でよりよい手関節機能再建を求めるだろう。しかし、そうでない整形外科医はあえて手術治療を選択しなくても、そこそこの手関節機能が得られるギブス治療を選ぶというわけだ。

したがって今後もギブスによる治療がなくなることはなさそうだが、ロッキングプレートという新しいデバイスは手関節骨折の治療に新たな風を巻き起こした。



もう一つ最近の論文でこれに関連したものがあったので一緒に紹介しておきます。




これによると手関節の骨折を手術で治した結果と、ギブスで治した結果は1年後の経過では機能(手首の動きとか)の面では特に差はなかったとのことです。

受傷、手術して1か月半とか2カ月の時点では手術治療を行った方が手首の動きの面からも患者満足度が高かったと書かれています。

若い人で、仕事やスポーツに早期に完全復帰したい人は手術治療を選択した方が良さそうですね。
お年寄りで別に治ればいいです、って人はギブスで治してもらうといいのかもしれません。

注意しておきますが、もちろんどっちの治療を選ぶにしても治療する人の腕に左右されますからね。




2009/08/11

Vertebroplasyは効果がない!?腰痛治療にがっかりな結果。


若田光一さんが宇宙から帰ってきて間もないですが、帰国後、骨粗鬆症を心配するニュースがありました。

宇宙は無重力空間ですから、地球上で意識せずにかかっているはずの重力が身体にかかりません。

人間の骨は破壊と生成を絶えず繰り返していますが、無重力空間だとこのサイクル遅くなります。そうすると、骨密度が低くなり、骨粗鬆症となります。

この病態は通常高齢者に多くみられるものです。骨粗鬆症がひどいと、脊椎が圧迫骨折を起こします。高齢者の背中が丸くなっているのは症状の有無にかかわらず圧迫骨折を起こしているからです。

脊椎の中でも腰椎や胸椎の下の方でよくこの圧迫骨折が起きます。

圧迫骨折の治療は通常、痛み止めを使いながらつぶれた骨が固まってしまうのを待ちます。痛みはかなりひどいことが多いので、体幹コルセットやカルシトニン類似の注射などを使うこともあります。
他にはVertebroplastyという1990年代から注目されてきた治療法があります。

日本ではどこの病院でもやっている治療法ではありません。どんな方法かと言うと、

The treatment, vertebroplasty, injects an acrylic cement into bones in the spinal column to ease the pain from cracks caused by osteoporosis, the bone-thinning disorder common in older people.

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と脊椎の中に医療用のセメントを注入して骨を固めてしまうという方法です。


Doctors began performing it in this country in the 1990s, patients swore by it ― some reporting immediate relief from terrible pain ― and it soon caught on, without any rigorous trials to determine whether it really worked.

これで腰痛がよくなると言われてきました。日本だとあまり一般の整形外科ではやっていませんが、ペインクリニックなんかでは行っているようです。


今回のこのニュースはこの治療法を否定する内容になっています。

The studies of vertebroplasty, being published Thursday in The New England Journal of Medicine, found it no better than a placebo.

このネタの出所は「The New England Journal of Medicine」という権威ある医学雑誌です。

The researchers prepared cement even during the sham procedure, so patients would smell it and imagine they were receiving it. The Americans assessed the patients one month later, and the Australians at one week and at one, three and six months.

対照群ではセメント注入と同じ手技でセメントの香りまで演出して患者に体験させています。

Vertebroplasty failed the test in both studies. The treated patients and the control group each had pain relief, but there was no difference between them.

結果、対照群でも痛みがとれたと。プラセボ効果ですね。セメントを注入してもプラセボでもどちらも同じくらい痛みがとれるのではセメントを注入した方がいいということにはならないですね。

これは衝撃的な結果でした。痛みに対する治療というのは本当に難しいものだと思います。





2009/08/07

ファッションと腰痛


腰痛予防に役立つ記事があったのでご紹介。

靴について

  • ハイヒールはやめて履き心地のいい靴を
  • せめて通勤時は履き心地のいい靴を。そしてオフィスに着いたらスタイリッシュな靴に履き替えて。
  • できれば支持性のある靴がいい。クッションの入った。その方がいい姿勢を保つのにいいから。土踏まずのあるきちんとした靴、でなければ中敷きを利用するとよいということだろう。
衣服について

  • 服も快適なものを。窮屈な服はいい姿勢をとるのに不適。

カバンについて

  • ハンドバッグの中身をできるだけ取り出してなるべく軽くすること。
  • バッグは長くて幅広のストラップがついたショルダーバッグにし、これを身体を横切らせるようにしてかける(メッセンジャースタイル。)
  • メッセンジャースタイルができないなら、時々右、左、とバッグをかける肩を入れかえること。
  • 荷物が重くても、姿勢はまっすぐ。猫背にならないようにすること。


Fashion and Back Pain 
Your Huge Handbag May be Stylish, But is It Worth the Pain? 
Kelly Rehan Medical Writer SpineUniverse Wheaton, IL 


2009/08/05

医療問題



本書は日本の医療制度と2006年の医療改革を中心に書かれていますが、今の医療制度を理解するのにも役立ちます。


先日、診療報酬の不正請求をめぐる詐欺容疑で摘発された山本病院ですが、今回はこのニュースと関係の深い診療報酬制度のことについて書いてみます。


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まずは医療費負担のこと


国民医療費は約31兆円ですが、それは誰が負担しているのでしょうか。

簡単に分けると、企業、国、病院にかかった本人です。これらがどれくらいの割合で負担しているのかを調べてみると、その内訳は保険料が15兆円、自己負担が5兆円、税金が10兆円となります。つまり、保険者が約半分、税金が約35%、医療をうけた人が15%を負担しています。

税金や自己負担は分かりやすい財源ですが、保険者というのはなんでしょうか。保険者が全体の約50%も負担しています。

保険者といのは企業や学校などが運営する組合健保や共済組合、中小企業を助けるために政府が運営している政府管掌健康保険組合(政管健保)、自営業者は無職の人々のためにある国民健康保険(国保)などです。(政管健保は2008年10月に全国健康保険協会が運営する協会けんぽに変わりました。)

これらの組合が保険料の一部を負担しています。

組合健保であれば、企業が保険者負担分の全てを負担します。政管健保にはそこまでの経済的な余力がないので国がある程度補って負担します。医療費全体の14%です。国保は負担してくれる組織がないので、すべて国が負担することになります。医療費全体の50%です。

国保の場合は医療費の85%が国からの財源でまかなわれていることになりますね。

定年退職した高齢者が多くなればなるほど国保加入者が増えるので、政府の負担が増えます。だからなんとかして退職者の分の保険料も組合健保に負担してもらおうと躍起になるわけです。


医療費負担と診療報酬との関係


どうして政管健保や国保では政府が補てんしないといけないのでしょうか。

それは、医療行為や薬価が決められた額に設定されていることが大きく関係しています。国民一人一人の負担割合が決まっていることも原因の一つです。政管健保や国保では自己負担で足りなかった分を企業が負担してくれないので、かわりに政府が負担してあげる必要があるのです。

アメリカのように保険者が自由に価格を設定すると、保険者により受けられる医療に差が出ます。お金のある人ならこれでいいでしょうが、ない人は大変です。生活困窮者はただでさえ病気になりやすいのに、早めに病院にかかれなかったら病状が悪化してから病院に運ばれるという事態になります。病院内で最もコストがかかるのは急性期医療ですから、お金がない人に対して優しくない医療制度は医療費高騰の原因にもなります。また、病院としてもこれらの患者からはきちんと医療費を支払ってもらえないでしょうから、経営が圧迫されることになります。

定められた医療の価格のことを診療報酬(レセプト)と言います。日本では教授が行った治療も、研修医が行った治療も同じ行為であれば、同じ額しか支払われません。診療報酬制度に基づいているからです。価格が定められていれば、ある程度総医療費もコントロールできるはずです。



不正請求事件の病院に月2千万円売り上げ、詐欺容疑業者



では、つい先日のこの事件はどうして起きたのでしょうか?

診療報酬明細(レセプト)ですが、これは病院で作られた後、厚生労働省の諮問機関である中医協の審査にまわります。そこで有識者によるチェックを受けてOKなら診療報酬が支払われます。

チェックといっても有識者がきちんと目を通すことがきるレセプトの数には限りがあります。膨大な量のレセプトに少ない数の審査員が全て目を通すのは無理な話です。これは容易に想像がつきます。ということは、ある程度チェックの目をすりぬけたレセプトが認められ、診療報酬が支払われることになります。また、レセプトは紙、もしくは電子システムです。いずれも入力するのは人間ですから、恣意があればいくらでも改ざんできます。それがチェックする人の目をすり抜けると、今回の山本病院のような不正請求につながります。


日本の医療制度における診療報酬制度は国民に平等な医療を提供する、医療費をコントロールするという意味では立派な仕組みかもしれませんが、今回のように不正請求をすり抜けてしまうという脆い一面も持っているということです。


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