2010/12/21

人工股関節の素材~ポリエチレンか金属か~


膝の痛みや股関節の痛みで苦しんでいる高齢者は多い。痛いもんだから、外出する機会も減る。刺激を受ける機会が減るからだろうか、気力も体力もどんどん衰えていってしまう。

変形性関節症や関節リウマチといった病気では関節の破壊が進行し、それによる痛みが発生する。

これらの治療において、もちろん自分の骨を温存できるのが一番なのだが、病勢が強くてそうも行かない場合がある。

そんな時に最後の手段としていい治療法がある。それが人工関節だ。これを行った患者さんたちの多くはとても満足して退院していく。


いい治療法なのだが、まだ未解決の問題がある。

3つ挙げると、

  1. 感染
  2. 人工関節のゆるみ(耐久性の問題)
  3. 脱臼
である。

今日は2,3に関して最近関連した論文に目を通したのでここに書いておく。


人工股関節では素材に関して、しゅう動面に金属とポリエチレンを使った場合、金属と金属を使った場合の2通りの選択肢がある。

poly.jpg
金属と金属の間にある白い素材がポリエチレン。


metal.jpg
こちらが金属と金属で組み合わせた人工股関節。


どちらがいいか結論は出ていないが、臨床の現場での多数派はまだ金属とポリエチレンを使った方である。


金属と金属を使った人工関節は最近

  1. 脱臼を減らす
  2. 摩耗を減らす 
という点で注目されている。

脱臼を減らすためにはHeadという部分が大きい方がいいのだが、そうすると、金属の摩耗が増えてしまうのではないかと危惧されている(ジレンマ)。金属がイオンとして血中に入り込み、人体に害を加えるのではないかとということだ。

それに対して、以下の論文はそうでもないから大丈夫と主張している。

SpringerLink - Clinical Orthopaedics and Related Research®, Online First™


次の論文は、脱臼も少なく、摩耗も少なければ人工関節としては耐久性に優れているはずだから、やむを得ず若い人に行う場合にいい素材になるのでは?と主張している。

Metal-on-Metal Hip Arthroplasty in Patients Thirty Years of Age or Younger -- Girard et al. 92 (14): 2419 -- Journal of Bone and Joint Surgery



まだまだ結論は出ませんが、人工関節の素材についてはこれからも研究が続けられていくものと思います。

2010/12/07

圧迫骨折の治療


vertebral fracture img
腰椎や胸椎の圧迫骨折は日常的によく見かける骨折だ。

特に多いのが高齢者の圧迫骨折。若い人でもものすごい勢いで尻餅をついた時などは椎体がつぶれて骨折してしまうことがある。

今日の外来診療でも圧迫骨折の患者さんを3人診た。午前中だけの外来でも、そんな患者さんを診ずにすむことはほとんどない。

圧迫骨折の治療で最も問題となるのは痛みの治療だ。折れるとものすごく痛い。痛くて身動きがとれないほど。

痛みの治療にはだいたい飲み薬や貼り薬の痛み止めを使う。他にはエルシトニンという筋肉注射も使っているかもしれない。これも圧迫骨折の痛みに効く。

ただ、これらの薬を使ってもなかなか痛みがよくならないことも多い。

そこで直接骨折した椎体になんらかの介入を行って痛みをよくしようという試みがなされている。


Osteoporotic vertebral compression fractures with an intravertebral cleft treated by percutaneous balloon kyphoplasty -- Wang et al. 92-B (11): 1553 -- Journal of Bone and Joint Surgery - British Volume

この論文では折れた椎体を風船でふくらませ、セメントを入れている。

痛みやADLの面で有効だったそうだ。

合併症はセメントの大静脈内への漏れや椎間板内への漏れなど。

合併症が起きたら大変だけど、痛みがよくなるならいい方法なのかもしれない。


椎体に直接治療を施すという方法は以前からも試みられていて、NEJMでは


A Randomized Trial of Vertebroplasty for Painful Osteoporotic Vertebral Fractures ― NEJM

という論文が発表されている。

こちらの論文では何もやらなかった群と大差はないとされている。


まだまだ結論の出ていない治療法ではありますが、もしかしたら一般に普及してくる方法なのではないかと期待しています。

Pages